東京2020広告に“普通ではない”反響 パナソニック、一大プロモ計画の舞台裏

スポーツナビ

“演出しない”ことを最初に決めた

最初に決めたのは“演出しない”こと。出演した人たちの自然な表情が引き出されている 【パナソニック ビューティフルジャパン】

――撮影する上で大切にしていることがあれば教えてください。

新宮 最初に決めたのは、“演出しない”ということです。通常、広告ではタレントさんに「ああしてください」「こうしてください」というふうにお願いして“良い画”を撮ろうとしますが、「ビューティフルジャパン」については(撮影クルーに対して)「極力演出したいという欲は排除してください」と。ですから、基本的にはドキュメンタリーです。それに、このスタッフはCMプランナーやコピーライターなど、広告的な肩書や枠組みでは作っていません。コピー(言葉)はアスリートやお子さんの言葉を中心に構成していて、その姿を飾ることなく伝えようということを徹底しました。作ることより、伝えることを意識として優先しています。

――テレビCMやSNS等、さまざななプラットフォームで「ビューティフルジャパン」が発信されていますが、お客さんの反応はどうですか?

新宮 SNSでの反応の中に「映像を見て涙が出ました」というのがありました。そういった視聴者の皆さんの反応がわれわれ伝える側のモチベーションにつながっています。

 東京2020大会の誘致については意見が分かれていたので、最初は少し心配なところもあったのですが、あまり困ったことはなく、SNSの書き込みでも「こうやって頑張っている人がいるなら応援しよう」「疲れた時や悲しい時に見ています」と。そういったコメントがあると、共感が得られたと思えてうれしかったです。

新宮 過去には「新聞広告に感動しました」と、「ビューティフルジャパン」の広告で手提げかばんを作って送ってくださった方もいらっしゃいました。かばん作りが趣味の方なのだと思います。きれいに柄をちゃんと見えるように、新聞を何部か買って作ってくださった。びっくりしました。全国でもローカルでも、心を込めてやってきましたが、ちょっと普通の広告ではない伝わり方をしているなという反応はたくさんあります。手紙なんかも多いです。

購買欲ではなく心を動かす

――テレビの販売促進として始まった「ビューティフルジャパン」が、従来のプロモーションとは違った受け止められ方をされたのはなぜだと思いますか?

新宮 機能を差別化する商品プロモーションは、いかにパナソニック製品の「はたらき」がお客様の心に届くかということを目的に推進しています。一方「ビューティフルジャパン」は、特にパナソニック製品の「はたらき」を伝えるのではなく、スポーツを通じて、日本の美しさやさまざまな人間の夢を伝えるプロモーションなので、「パナソニックなんだ、これは」と気づいた時に初めて弊社の取り組みとして共感してもらえる。「パナソニック、いいでしょ?」ではなくて。パナソニックであることに気づいてくださるくらいでいいんです。それが従来の受け止め方とは違う大きな部分だと思います。

――「あ、パナソニックなんだ」と後で気付く感じですね。

新宮 基本的には、オリンピック・パラリンピックを盛り上げようということで、絶えず積み上げで進化していく6年間で日本中のコンテンツを撮っていくという意味において、私どもは「ビューティフルジャパン」を“広告”というより“アーカイブ化”と言っています。“美しい国”という部分で言うと、風景のアーカイブ映像が恐ろしいほどあるんですよ。富士山だけでも何千枚とありますから。それに、虫もいれば稲穂もあれば、桜はあるし山もある。それが4K映像、画像で何十テラ分という途方もないデータが残っています。風景などは永遠にパナソニックの財産にしようと思っています。

――東京2020大会前だけでなく、大会後にも生かせるコンテンツになりますね。

 取り組み始めた時は、パナソニックだけが先行している感じがありました。でも、そのうちにいろいろな企業や海外からもお声をかけていただくようになりました。最近では、東京2020大会組織委員会の「My TOKYO2020」というTOKYO2020 ID登録者向けの情報サイトにもコンテンツを提供しています。

――最後に、「ビューティフルジャパン」というプロジェクトを通じてあらためて感じた“スポーツの力”があれば教えてください。

新宮 スポーツって基本的に結果がはっきり分かれますよね。ダメなものはダメ、負け、というふうに。その中で挫折もするし、負けを自分ではっきり認識する。(撮影に参加した)小学生たちがそうして自分のことを客観的に見る姿や、負けを受けて次の目標を立てたりする姿を見るたびに、「サラリーマンは甘いな」「結果があいまいだな」と思ったりするわけです。ある撮影では、子供たち2人が競い合っていて、お互いライバルとしてすごく厳しい世界で戦っているのだけれど、同時に一緒にやっているという面もあって、いろいろなことが凝縮されている。あらためて「スポーツの良さって、そこだなぁ」と。どこの県も本当に印象に残る人たちで、1つとして同じではない。そんなふうに感じました。

「ビューティフルジャパン」のプロジェクトメンバーの皆さん 【スポーツナビ】

(取材・構成:小野寺彩乃/スポーツナビ)

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