高知県の高校サッカー、未来は明るい? 欧州の教えを取り入れて全国に追いつけ

中田徹

選手育成に人口は関係ない

育成に定評があるフェイエノールトは、これまでに多くの名選手を輩出してきた。そのアカデミーの指導者を招いて開催した講習会&クリニックで、高知県の関係者は大いに刺激を受けたという 【写真:ロイター/アフロ】

 フェイエノールトが高知で行った講習会&クリニックで通訳を務めたのは、同じロッテルダムのエクセルシオールの育成部門で指導者を務めた経歴を持ち、現在は藤枝明誠スポーツクラブU-13監督の小坂献だった。彼は高知を応援するため、三ツ沢球技場を訪れていた。

「フェイエノールトの講習会は高知県内でも大きなイベントとして注目されて、テレビや新聞社も取材に来ていました」

 来日したフェイエノールトのコーチ、グレン・ファン・デル・クラーンは認知トレーニングの専門家であり、視覚・聴覚・実際のタッチなどを使って敵・味方・スペースの状況を把握するトレーニングと、その重要性を説いたそうだ。どのような選手をスカウトするかという点でも、フェイエノールトは認知能力に秀でた選手を獲得している。

「映像を使って、グレンは『この7歳の選手は体が大きいわけでも、足が速いわけでもないですよね。でも試合では常にボールが彼を経由する。こういう認知能力の高い選手は絶対に伸びる』と説明していました。高知県の指導者たちにも興味深かったようです」(小坂)

 フェイエノールトの指導者の目から見て、高知県の育成年代の選手たちは「ドリブルなどの技術は素晴らしいが、ボールを止める・蹴るところが足りてない。認知も足りてない」というものだった。高知県の指導者たちにも、「自分たちは全国のレベルに追いつかないといけない」という自覚がある。そのせいか、小坂は「これまで私が携わった講習会の中でも、高知県の講習会は指導者の一致団結感を最も強く感じた」という。

「なにより高知県の指導者の方たちは、『他県から選手を呼ぶんじゃなく、自分たちの子供で強くなりたい』という意欲が強い。そこに私も共感しました」

 JFAのフットボールカンファレンスでは、躍進著しいアイスランドから指導者が来て講演会を行った。フェイエノールトも、オランダという小国のサッカークラブである。アイスランドは国の人口が約35万人。フェイエノールトのホームタウンである、ロッテルダム市の人口も62万人にすぎない。フェイエノールトやアイスランドを見れば、人口が少なくてもスカウトの目と育成次第でタレントは出てくるし、世界の強豪と互角に戦えることがわかる。

「フェイエノールトのアカデミーはロッテルダム市内と近郊からしか選手を獲りません。高知県の人口は何人ですか? われわれとあまり変わりませんよね?」

 グレンは講習会でこう言った。高知市の人口は34万人、高知県の人口は76万人だ。

「選手の育成に人口は関係ないという話です。そこに高知の指導者たちは夢を感じたみたいです」(小坂)

 高知県の取り組みからは、全国に追いつき、そして追い越せという気概が伝わってくる。

(企画構成:YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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