連載:日本スポーツ界の若き至宝

「見ている景色」が違う規格外の至宝5人 世界の頂点を極めても驚きはない

吉田治良

才能だけでなく人間性も磨き上げるべき

八村塁のNBAでの冒険は始まったばかり。パイオニアにかかる期待は大きい 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 天賦の才にあぐらをかかないのは、今年6月のNBAドラフトで、日本人として初めて1巡目指名を受けたバスケットボールの八村塁(ワシントン・ウィザーズ)も同じだ。元プロバスケ選手で解説者の佐々木クリス氏の言葉が印象深い。

「アメリカに2メートルを超える選手も、彼よりジャンプ力のある選手もたくさんいる。そのなかで1巡目指名を受けたというのは、単純にバスケを愛する気持ちが誰よりも強いからだと、個人的には思っています。才能ももちろん必要ですが、そこにあぐらをかいて持て余す人もごまんといるなかで、彼はたゆまぬ努力で才能を磨き上げていったんです」
 世界を舞台に、世界と伍して戦う上では、語学力ももちろん重要になる。その点で、幼少期をスペインで過ごした久保には大きなアドバンテージがあり、また八村も高校時代は苦手だった英語を努力で克服している。ただし、金子氏は「語学力=コミュニケーション能力の高さ」ではないと強調し、佐々木氏も八村の成功を「言語的な障壁だけでなく、文化的な障壁も乗り越えたことが大きかった」からだと解説する。

成長著しい左の大砲・村上宗隆。球界を代表する打者に成長できるか 【写真は共同】

 磨き上げるべきは、才能だけではない。コミュニケーション能力の源となる「人間性」を磨くことの大切さを説くのは、本連載で、野球の村上宗隆(東京ヤクルトスワローズ)について語ってくれた元プロ野球選手の多村仁志氏も同様だ。

 高卒2年目の今季、10代の選手として史上最多の36本塁打を記録した天性の長距離砲を、「侍ジャパンの4番に座って、球界を引っ張っていく存在になる可能性を秘めている」と高く評価する一方で、多村氏はMLBの超一流プレーヤーと接した経験から、村上にこんな注文も出している。

「成績だけでなく、これから人間性も磨いていってほしい。松井秀喜さん(元ニューヨーク・ヤンキースなど)も人格者で知られましたが、村上選手もファンに愛されるスーパースターになってほしいですね」

八村がファイナルMVP、久保がバロンドールに…

“ジャッカル姫野”は4年後、成長したプレーでまた日本を沸かせてくれるはずだ 【写真:アフロ】

 将来、おそらくはアメリカに渡るであろう村上とともに、これから世界の舞台へと飛び込んでいくのが、ラグビー日本代表の姫野和樹だ。

 先のラグビーワールドカップ(W杯)で、日本代表のベスト8進出に大きな貢献を果たした“ジャッカル姫野”が、真のワールドクラスになるために必要なのは、元日本代表の大西将太郎氏いわく、「世界での経験と語学力」。仮に今後、キャプテンとして多国籍軍のジャパンをまとめる役割を担うなら、なおさら英語はいち早く身につけておくべきだろう。

 それでも、「とても吸収力の高い、ある意味で本当にピュアな選手」(大西氏)という姫野なら、きっと4年後には「世界最高のナンバーエイト」としてW杯のピッチに立っているに違いない。
 その昔、西鉄ライオンズの黄金時代を築いた強打者で、引退後は解説者として活躍された豊田泰光さん(故人)は、猫も杓子もMLBに行きたがる日本球界の風潮に、こんな苦言を呈したものだ。

「今いる場所、与えられた地位の幸せに、まず思いを巡らすことだ」

 確かに、己の実力もわきまえずに海を渡り、これといった成績も残せぬまま傷心の帰国を余儀なくされた選手は、野球界だけでなくサッカー界にも少なくない。

 けれど、ここに取り上げた5人は違う。彼らはこぢんまりとした、ただ居心地の良い名声を与えられただけで満足するような、そんな器ではないのだ。

 いつの日か、姫野がワールドラグビー選定の年間最優秀選手賞に、村上がMLBの本塁打王に、望月が日本人男子初のグランドスラム王者に、八村がNBAのファイナルMVPに、そして久保がバロンドールに輝く──。そんな壮大な夢を見させてくれる、規格外の5人なのだ。

 もちろん、それぞれに克服しなくてはならない課題があれば、ケガなど不運に見舞われ、行く手を阻まれるリスクもあるだろう。それでも、彼らがトップ・オブ・ザ・トップに上り詰める可能性は、決してゼロではない。見る目のない、無責任な元サッカー雑誌編集者だが、こればかりは責任をもって断言する。

(企画構成:YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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