ラグビーW杯でカメラマンが感じたこと 夢を叶え、夢が生まれるスタジアム

志賀由佳

釜石に響いたウルグアイの祝福の声

ウルグアイサポーターにとっても、釜石は特別な場所になっただろう 【Photo by Yuka SHIGA】

 この場所でワールドカップが開催される。それだけで意味があったと思います。
 たくさんの大漁旗に、ゴール裏を埋め尽くした子どもたちの声援。釜石鵜住居復興スタジアムで行われた試合は、予想を覆してウルグアイがアップセット、30対27で2003年大会以来のに勝利をつかみました。

 メインスタンドの一角でまとまって応援していたウルグアイサポーターは大騒ぎで、選手も駆け寄って長い時間祝福の声が響き渡りました。
 試合後にスタジアムを出たメインストリート、ボランティアの方々の花道の中を、誇らしげに帰っていくウルグアイサポーターの姿を見て「この場所でしか撮れない写真がある」とあらためて実感しました。

独走を止めたアイルランド代表選手の意地

日本代表の福岡堅樹にアイルランド代表キース・アールズが追いついた瞬間 【Photo by Yuka SHIGA】

 大会直前の南アフリカ戦でケガをした福岡堅樹選手は、初戦のロシア戦を欠場し、満を持して2戦目のアイルランド戦のリザーブに入りました。後半10分に交代出場し、その9分後に鮮やかなトライ。そして、もう一度大きなチャンスが訪れます。

 自陣でインターセプトした福岡選手は一気にトライラインを目指して駆け上がります。私の撮影ポジションからは常にゴールのポールの片方がかぶっていて、福岡選手にピントを合わせ続けるのが精一杯の中、一瞬ポールと完全にかぶった福岡選手がファインダーから消えてしまいました。
 次の瞬間、福岡選手が現われたと思ったらアイルランドの14番、キース・アールズ選手の手が伸びていました。ノーサイドが近づく時間帯に、スタメンの選手が追いついたという事実にアールズ選手の意地を感じました。そして撮っていて何よりも驚いた瞬間でした。

アルゼンチンが「カメラマンにも優しい」理由

アルゼンチン代表の伝説的な選手であるニコラス・サンチェス 【Photo by Yuka SHIGA】

 2015年のイングランド大会では、アルゼンチン代表が試合後に観客席まで行って、長い時間サインや自撮りに応じていたのがとても印象的でした。
「日本大会ではどうなんだろう」と思っていたら、彼らは何も変わらずにファンとたくさんの時間を共有していました。

 アルゼンチン代表、愛称ロス・プーマスの不動の司令塔、ニコラス・サンチェス選手は誰よりも長い時間をファンと過ごしていました。途中でソックスとスパイクをファンの兄弟にプレゼントした時は、彼らよりもお父さんの方が大興奮。「たくさんの素敵な写真を撮らせてくれて、カメラマンにも優しいチームだなぁ」と隣のカメラマンさんがつぶやいていました。

ドロップゴールがドラマを呼ぶ?

ウェールズ代表リース・パッチェルが大声で味方選手に指示を出す 【Photo by Yuka SHIGA】

 ウェールズ代表とオーストラリア代表の強豪対決で、味方選手にドロップゴールのコールをするウェールズ代表リース・パッチェル選手。
 ドロップゴールは、ボールを一度バウンドさせてから蹴ってゴールを狙う繊細な技。緊張感のある中で、大声でボールを呼ぶ姿からはパッチェル選手の気迫と自信が伝わってきます。

 ドロップゴールは日本の試合ではあまり見られませんが、ウェールズはこの試合だけで2本決めていて、少年たちが目にする機会も増えています。
 2003年大会の決勝、イングランド代表が優勝を決めたのは、ジョニー・ウィルキンソン選手の劇的なドロップゴールによるものでした。日本代表が参加する決勝トーナメントでも、勝敗を分けるドロップゴールが生まれるかもしれません。

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