連載:アスリートに聞いた“オリパラ観戦力”の高め方

香西宏昭が志向する緻密な車いすバスケ 「障がいの度合い」によるチーム編成が鍵

C-NAPS編集部

世界を知る男が語るメダル争いのライバル

メダル争いはイギリスとアメリカが一歩リードすると語る香西 【写真:C-NAPS編集部】

 東京パラリンピックで注目している国は、18年世界選手権優勝のイギリスと16年リオデジャネイロパラリンピック金メダルのアメリカですね。この2チームは他の国よりも少し抜きん出ている印象があります。アメリカには大学時代やRSVランディル(ドイツ)でプレーしていた時のチームメートがいますし、僕の友人や知人が多いチームです。中でも大学時代に一緒に戦ったスティーブ・セリオ選手に注目してください。チームの中心人物で得点も取れて周りも生かせて、さらにリーダーシップも抜群という万能な選手ですね。

 一方、イギリスではサイモン・ブラウン選手とハリー・ブラウン選手の2人がチームの中心になるでしょう。彼らがいるのといないとでは、チームプレーの出来が大きく変わるほど重要な選手です。得点能力が高い選手も重要ですが、彼らのように黒子に徹する選手がいることで、チームがより機能します。助け合いの精神が必要な車いすバスケットボールではなおさらそうした選手の存在は貴重ですね。

パラリンピックでは車いすバスケットボール界のマイケル・ジョーダンことパトリック・アンダーソン(左)にも注目だ 【写真:ロイター/アフロ】

 車いすバスケ界のマイケル・ジョーダンと言われるカナダのパトリック・アンダーソン選手にも注目です。僕がイリノイ大学に行ったのも彼の出身校でプレーしたいと思ったのが理由の一つでした。彼は世界一のスキルを持っていますし、プレーで多くの人を魅了できるスーパースターです。自分も見ていてワクワクします。もう大ベテランですが、まだまだ成長し続けている本当に楽しみな存在です。

 世界のスター選手と戦う機会はこれまでたくさんありましたが、強豪国との対戦では体格の差を痛感しますね。身長はもちろん、腕の長さも異なるのでどうしても高さに差が出ます。日本としては、世界の高さにスピードで対抗したいですね。日本は世界でも5本の指に入るスピードが武器なので、その強みにプラスして緻密なプレーとチームワークの精度を追求することで対抗したいと思っています。

リオでの悔しさを胸に東京での金メダル獲得を目指す

後悔が残ったというリオでの経験を生かし、東京では金メダル獲得を目指す 【Getty Images】

 僕はこれまで北京、ロンドン、リオデジャネイロと3大会パラリンピックを経験しています。前回のリオは予選リーグ敗退で非常に悔しい思いをしましたね。副キャプテンとして「勝ちたい」という強い気持ちで臨んだ大会だっただけに、すごく悔いが残りました。当時は感情をうまくコントロールすることができませんでした。東京では金メダルを獲得して自分たちのこれまでの準備が間違っていなかったことを証明したいですね。あのリオでの後悔を二度と繰り返したくはありませんし、これ以上、日本代表で負けるのは本当に嫌なので。

 実際に日本が金メダルを獲得する可能性は十分にあると思います。それくらい世界の実力差は拮抗(きっこう)していて、どこが勝ってもおかしくない状況です。日本の「スピード」「緻密さ」「チームワーク」を軸にしたバスケに適応できた国は指折り数えたくらいしかありません。本番までにコンディションを整え、どれだけ精度を高められるか。この2点に注力します。

 僕は悩んだ末に、本番までの1年間を日本でプレーすることに決めました。日本を拠点にしてプレーするのは12年ぶりです。パラリンピックで結果を残すためには、フィジカル能力の向上やコンディションの維持が不可欠になります。毎週のように試合が続く海外と比べると実戦の機会は少ないですが、弱点の強化に集中できる点がメリットです。自身のレベルアップのために、より多くの時間を割きたいと考えています。

 東京パラリンピックは自国開催ですが、あまり気負いし過ぎないことを意識しています。リオの時は思いが強すぎて平常心を保てず、感情をうまくコントロールできませんでした。その反省を生かしたいですね。今やるべき事にフォーカスし、自分自身を見失わないよう冷静に準備していきたいです。本番では日本のバスケを世界に見せたうえで、金メダル獲得の夢を実現させたいですね。

(取材協力:オリエンタルホテル 東京ベイ 日本料理 美浜)

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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