やり投げ・北口榛花が届かなかった6センチ 欧州での武者修行を糧に、さらなる進化を

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自身初の世界陸上に挑んだ北口。わずか6センチで決勝進出を逃した 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 決勝進出までの道のりは、本当にあとわずかだった。だが、ほんの少しの差が大きな壁となって、世界大会デビュー戦の北口榛花(日本大)に立ちはだかった。

 陸上の世界選手権4日目が、現地時間30日にカタール・ドーハで行われた。女子やり投げ予選で、日本記録保持者の北口は2投目で60メートル84センチをマークするも、全体13位で敗退。決勝に進出した12位の選手まで、あと6センチ届かなかった。佐藤友佳(ニコニコのり)は、55メートル3センチで29位。日本勢8年ぶりの決勝進出はならなかった。

「あと1メートルくらい投げたかったな…」

 予選が終わり、ミックスゾーンに現れた北口は「あと1メートルくらい投げたかったな……」とこぼした。64メートル36センチの自己記録を持っており、力を出し切ることができれば決勝進出は十分に射程圏内だった。それだけに、ひときわ悔しさが募った。

 わずかなずれを修正することができなかった。助走の感触は良かったが、「やりは(自分の)右に向かって飛んでいるのに、自分の体は開いて左へ向いてしまった。真っすぐに飛んでいかない分、完全にロスしてしまった」。そのズレがあだとなって、身長179センチ・体重84キロの体に秘めるパワーが完全には伝わりきらなかった。

 日本での試合ではおなじみとなっている、投てき前の「いきまーす!」という掛け声を、「今日は日本人がいるので安心して言えました」と久々に披露。2投目、3投目と60メートル台を2度記録し、状態は悪くなかったものの、結果的にはほんの少しのミスが明暗を分けた。

 北口のA組が終わった時点では、全体で7番目と微妙な位置にいた。取材中は「今が一番気持ち悪いです。次の組の結果を見たくないです」と苦笑い。まだ決勝に進む可能性も残っていたが、B組で6人の選手が北口の結果を上回り、道が閉ざされた。

3カ月にわたる修行の成果も

やり投げ大国のチェコに渡り、レベルの高いチームメートに刺激を受けながら己を磨いた 【写真:アフロスポーツ】

 5月に行われた木南道孝記念で日本記録を更新。それまでの記録を56センチ塗り替える、衝撃的な投てきを見せた。6月の日本選手権でも大会新記録をマークして初優勝を飾り、今季は大躍進を遂げた。その後はしゃく熱のドーハで行われる戦いに向けて、緻密な準備を重ねていた。

 全日本選手権が終わるとすぐに海を渡り、2月にも単身で練習を積みにいったチェコを中心に、約3カ月欧州に滞在。「技術的なことはあまり変えていないけど、筋力アップや走力アップを中心に取り組んできました」。世界記録保持者のバルボラ・シュポタコバ(チェコ)らがいる、レベルの高い環境に身を置いたことで「チームメートもいろいろな記録を目指して頑張っている。『私も頑張らなくちゃ』という気持ちになった」と、常に刺激を受けながら練習を重ねていた。

 また、欧州での試合にも積極的に参加し、7月のユニバーシアードを含めて計6試合に挑んだ。1カ月前に行われたチェコでの試合では「1日目に予選をして、1日空けて決勝というリハーサルもした」と、日をまたいで予選と決勝を戦う予行演習まで行ってきたという。そこまで入念に用意を進めていたこともあり、「特に緊張することはなかったです。周りは一緒に試合したことがある選手ばかりだったので、みんなと普通に話しながらやっていました」と、初めて挑んだ大舞台でも臆することなく、堂々とした投てきを見せた。

 カタールと時差が1時間しかないチェコにいたため、「みんな時差ボケで苦しんでいる中、私はすごく元気です」と笑った21歳。時には日本人が恋しくなったりしたこともあったというが、1人で己を磨き続けた経験は大きな糧となるだろう。敗戦の悔しさを成長につなげて、次なるビッグスローを目指す。

(取材・文:守田力/スポーツナビ)
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