武井壮が「一番タフ」とこぼしたパラ水泳 苦しさの中で、技術と心の交換を見出す

スポーツナビ

今回はパラ水泳に挑んだ武井さん。ロケに参加した富田宇宙選手(左から3番目)、立石諒さん(同5番目)らとともに記念撮影 【写真:吉田直人】

 己の身ひとつでパフォーマンスの極地を目指すパラ水泳。競泳という一見シンプルな競技の中に、障がいの種別や程度によって無限の創意工夫が存在し、選手たちは日々研鑽(けんさん)に励んでいる。

 今回は、陸上・十種競技の元日本チャンピオンでタレントの武井壮さんが、パラ水泳を体験するというNHKの撮影現場に同行。光を遮断する「ブラックゴーグル」を装着して泳ぐ難行に挑み、感じたこととは?

水の中にいるだけでストレスがかかる

 いやー、疲れましたね。実は水泳をやった経験がないので泳ぎ方も知らないし、何より“見えない”というのが本当にストレスでもあり、恐怖でもあり。力を出したいけれど、出せないと余計な力みを生んじゃうから、より疲れましたね。これまでもゴールボールなど、目を隠して行うパラスポーツに挑んできましたが、全然違う感覚でした。10倍くらいキツいと言っても過言じゃない。今まで経験した中で一番タフじゃないかと思います。

 水の中にいるだけで、やはりストレスがかかります。あとは息継ぎをしなきゃいけないけれど、見えない中で真っすぐ泳がないといけない。そして、コースロープを探さないといけない。でも、左にいるのか右にいるのかも分からない。そろりそろりと探るように腕をかいていると息継ぎを忘れるので、酸素が飽和してきちゃうんです。

 それでもう気付いたときには結構いっぱいいっぱいな呼吸になっていて、ひとかきの呼吸じゃ足りなくなっていて。体への負荷もどんどん強くなってくるし、その限界に達したころに25メートルのターンがやってきて、タッパー(先端にウレタンの付いた棒で選手の頭や背中をタッチし、タイミングを知らせるスタッフ)に頭をたたかれるんですよ。

「え、ここでクイックターンするんだ」って思って、水の中に「くるん」って入った瞬間に、溺れているような感覚になるんです。ギリギリまで潜水して、「もう無理」って言って水面に出ていくような感じで呼吸しようとするけれど、泳がなければいけない。大げさでなく、今までで一番苦しかったですね。

 それはやっぱり、“見えない”ということが一番大きな影響でした。見える中で25メートル泳いでも息が上がるくらいで、そんなに体への負担はない。だけど、目隠しした途端に精神的なストレスや足の疲労と、いろいろなものが襲ってくる。想像以上に難しいし、想像以上にタフだし、身につけなければいけない技術も多いと感じましたね。

初めてにしてはいい泳ぎができた

水泳自体が初体験だった武井さん。それでも「初めてにしてはいい泳ぎができた」と手応えをつかんだよう 【写真:吉田直人】

 そんなタフな競技をやり続ける選手はすごいと思うし、今回取材させていただいた富田宇宙(日体大大学院/EY Japan)選手ももちろんすごいなと思いました。

 でも、そこにたどり着くためには何が必要かというのも、一本一本泳ぐたびに感じたので、磨いていけば彼のようになれる希望も感じました。水泳を初めてやって、しかも生まれて初めてクイックターンを目隠しでさせられて、それをしながら50メートル完泳できた。それはやっぱり富田選手がやっていることとか、(ゲストで登場した)立石諒くんがやっていることを見て、「なるほど」と。

 初日にしては、本当にいい泳ぎができたんじゃないかな。決して美しくもないし速くもないけれど、結構なところまではたどり着けたかと思います。

 ただ、スタート台に立つだけで恐怖感があるんですよ。高いのも感じるし、下に水があっても見えないし。でも一回勇気を出してポーンと飛び込んでみると、一回自分の体で何が起きたのか分かる。その後はフィーリングを基に修正できるので、2本目の飛び込みはうまくいきました。

 だから、泳げば泳ぐほど、トライすればするほど、成長できる競技だなと。見えないし、できないことだらけだけど、だからこそ強烈な伸びしろを感じますよね。

一人でチャレンジするのは嫌だったが……

富田選手と談笑する武井さん。「富田選手の鍛え上げられた体と技術に、素直にリスペクトを抱けるロケになった」と振り返る 【写真:吉田直人】

 これを一人でチャレンジすることは嫌ですが、富田選手と立石くんの二人が横にいてくれて、一緒に泳いでくれたことが大きかったです。

 オリンピック銅メダリスト・立石諒の技術、知識と経験をもってしても、恐怖心もあるし、ターンも恐る恐るになるし、というのを間近で見ました。自分がこの恐怖感を感じることは当たり前なんだと、素直に受け入れられましたね。

 二人がいてくれたおかげで今日はいい泳ぎができたし、どういった技術を使って目の見えない中での水泳を、スピード感をもって繰り広げているのかが分かりました。

 人間の可能性って本当に自分の体がどんな状況になっても、ついえることはないんだなと、毎回パラリンピアンの子たちからは教わります。今回も富田選手の鍛え上げられた体と技術に、素直にリスペクトを抱けるロケになったと思います。

 富田選手も立石くんに50メートルで勝てた経験は宝物になるだろうし、これからパラリンピアンの選手と戦っていくのに自信になってくれると思う。みんなで楽しく、水の中で時間が過ごせたなと思います。怖かったし、苦しかったし、しんどかったし、大変でしたけれど、非常に充実した彼らとの技術と心の交換ができたんじゃないかなと思います。

 これからパラ水泳を見るのが非常に楽しみだし、世界の戦いがどんなレベルなのかも見てみたい。例えば水泳大国のオーストラリアとか、世界でメダルを取るような選手がどんな実力を持っているのかだとか、やはり興味が湧きましたよね。

■武井壮プロフィール
陸上・十種競技の元日本チャンピオン。スポーツ番組やバラエティなど、テレビやラジオを中心に活躍しつつ、世界マスターズ陸上の4×100mリレー(M40クラス、M45クラス)の金メダリストであり、日本記録保持者。今でもさまざまなスポーツにチャレンジし続けている。現在はプロテストを目指してビリヤードにも挑戦中。

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◆◆◆ NHK番組情報 ◆◆◆
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