U-18侍主将が戦って、冷静に感じたこと 「チームのため、いかに犠牲にできるか」

沢井史
 8月末から9月上旬まで行われた、「第29回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ(W杯)」。日本は5位に終わる中、最前線で戦い続けた選手は何を感じていたのか。帰国後、主将の坂下翔馬(智弁学園)に話を聞いた(取材日:9月13日)。

当たり前のことをちゃんとやろうと…

U-18W杯で日本代表を引っ張った坂下翔馬。大会中は何を感じていたのだろうか 【沢井史】

 激戦となったスーパーラウンド第2戦の韓国戦。延長10回タイブレークでサヨナラ負けを喫し、ミックスゾーンに現れた坂下の目は涙で真っ赤だった。

 この日、坂下は9番・二塁でスタメン出場したものの3打数無安打。持ち味の打撃でいいところを見せられず、表情だけで十分悔しさは伝わってきた。

 U-18日本代表の20人の選手が発表されたのは、夏の甲子園準決勝後の8月20日だった。その中に名を連ねた坂下は、ひとつの覚悟をもってメンバーに加わった。

「20人の中で自分は一番下手くそなので、プレーで引っ張ることはできなくても、声を出すとかどんなプレーでも全力でこなすとか、当たり前のことをちゃんとやっていこうと思いました」

 同時にキャプテンにも選出された。智弁学園では1年夏からレギュラー。強いリーダーシップを武器にキャプテンを務めていたとはいえ、全国の厳選された選手20人が集うチームでのキャプテンはまた違う。

 副キャプテンは森敬斗(桐蔭学園)と奥川恭伸(星稜)。森も明るい性格でチームを盛り上げる役を買って出て、奥川はチームで唯一の昨年の日本代表経験者。それぞれの立ち位置から坂下を盛り立てた。チームには森をはじめ山瀬慎之助(星稜)や武岡龍星(八戸学院光星)、石川昂弥(東邦)など自チームでのキャプテン経験者も多かった。その中では特に山瀬の存在がとても大きかったという。

「山瀬と奥川は(甲子園決勝まで勝ち残った関係で)遅れてチームに合流して、山瀬が自己紹介の時に、声を出すことも含めて自分をサポートしたいって言ってくれて、すごくうれしかったです。山瀬とは性格的に合うところがあって、部屋で本当にいろんな話をしました」

先代キャプテンからもらったアドバイス

大学代表の篠原からもらったバットを愛用する坂下 【沢井史】

 8月26日に行われた大学代表との壮行試合では、現在の大学代表キャプテンで4年前のU-18代表のキャプテンも務めた篠原涼(筑波大)の下に自ら出向いて、アドバイスも受けた。

 篠原は敦賀気比時代に、キャプテンとして2015年センバツ制覇の経験も持つ。何度も挫折した経験を踏まえ「『自分が引っ張ろうと思ったらダメだから、どうやったらチームが勝てるかをだけ考えてやったらいいよ』と言っていただきました。考えすぎるのが一番ダメみたいで。何度かLINEでもアドバイスをもらって、すごくありがたかったです」。壮行試合後に篠原からもらったバットは、今、練習で愛用している。

 そんな周囲の支えもあり、代表チームは船出を迎えることになるが、練習を通して坂下はまず選手一人一人の特徴を見極めていた。

「練習から、みんながどんなプレースタイルなのかを把握するようにしました。声をどんな時に出したり、掛けたりしているのか……。森は外野からすごく大きな声を出していたけれど、反対に石川はプレーで引っ張るタイプ。二遊間を組んだ武岡はどちらかと言うと静かな方ですが、要所で声を掛けてくれました」

 合宿期間中から選手間ミーティングは定期的に行い、意思の疎通も図った。壮行試合で血マメができて投球を控えていた佐々木朗希(大船渡)と、夏の甲子園の疲労のあった奥川が万全ではないことを受け止め、「一次ラウンドは他の投手陣が踏ん張って、投手陣をできるだけ楽にしてあげられるよう自分たち野手が頑張ろう」と常に言い合ってきた。

慣れない守りに木製バット…国際大会の難しさ

初戦のスぺイン戦でガッツポーズを見せる坂下。しかし日程が進行していくにつれ、国際大会の厳しさを体感することになる 【Getty Images】

 オープニングラウンド初戦のスペイン戦は、0対2の劣勢のまま8回に逆転。何とか勝利をものにした。続く南アフリカ戦は19対0で完勝。そして今大会18連勝中のアメリカには16対7で4年ぶりの勝利をものにした。次戦の台湾戦は雨の中のひとつのミスが勝ち越しを許すきっかけとなり、大会規定の5回降雨コールドで1対3で敗れ、徐々に国際大会の厳しさを体感することになる。

「海外の球場の芝は、日本の球場と違って濡れると球足が速くなるんです。グローブを早めに出したり、ボールのスピンを止めるために色んな工夫はしましたが、守りにくかったです。国際球は握りにくいうえに、雨で滑って送球ミスにつながることも多かったです」

 慣れない守備位置への対応は周囲からの指摘もあった。昨夏まで二塁手だった坂下は大きな抵抗を感じなかったが、現地に立たないと分からない難しさも多々あったという。

 木製バットに関しては、夏の甲子園に出場がなかった選手は代表招集までに社会人チームに出向いて練習をした者も多く、坂下自身も甲子園から帰郷後に木製バットでの練習は重ねてきた。だが、実際に対戦してみないと分からないこともあった。

「外国人投手のボールは手元で動くので、まずはそこをどう攻めるかでした。智弁では初球からフルスイングでガンガン振っていくスタイルですが、日本代表の試合ではボールを見て粘ってどんな形でもいいのでつなぐようにと(指示があった)。そこに迷いが出てしまったところはあります。最初はそれをみんなにどう伝えていけばいいか分からず、まず自分が実行していかないと、と思いましたが、なかなか対応できませんでした」

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著者プロフィール

大阪市在住。『報知高校野球』をはじめ『ホームラン』『ベースボールマガジン』などに寄稿。西日本、北信越を中心に取材活動を続けている。

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