- 沢井史
- 2019年9月6日(金) 12:00
韓国・機張(キジャン)で行われている「第29回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ(W杯)」。スーパーラウンドを戦う日本の中で、ひときわ華奢(きゃしゃ)な投手がいる。貴重なサウスポーのひとり、林優樹(近江)だ。今回は林を近くで見続けてきた筆者が、彼の大会中の様子やこれまでの足跡を記す。
試合前の表情に“違い”が

1日のアメリカ戦。試合前に打撃練習が行われているブルペン横を歩いていた林が、不安げな表情を浮かべながら、こんな言葉を発していた。
「アメリカ打線、やっぱりすごいですよね? 雨も……大丈夫なんですかね」
この日は朝から重たい雲が空にたちこめ、小雨がぱらついたり、やや本降りの雨が降るコンディション。前日の南アフリカ戦で今大会初登板を果たし、ある程度国際大会のマウンドを体感したとはいえ、雨のマウンドは本来のピッチングができるか、まずは不安がある。
何よりU-18W杯では破竹の18連勝をマークし、MLBドラフト上位候補の強打者がずらりと並ぶアメリカが相手だ。日本国内でも強力打線のチームとは何度も対戦しているとはいえ、やはりアメリカ打線は何もかもがケタ外れだ。
と同時に、筆者はいつもとのある“違い”を感じていた。林は天真爛漫な性格で、普段から朗らかな表情を見せることが多く、試合前もその表情を大きく変えることはほとんどない。
ただ、この日に関しては表情が明らかにこわばっていた。永田裕治監督は林が少しでも緊張しないよう、試合直前の昼食時に先発を告げたそうだが、いつ先発を告げられても、やはり緊張するものは緊張してしまう。
いきなり先制許し、2回で降板
初回。先頭打者のクロウ=アームストロングに左翼前にポトリと落ちる二塁打を許し、いきなり無死二塁。次打者のハッセルには四球を与え、無死一、二塁にピンチが広がった。
林のピッチングの持ち味はテンポの良さだ。アメリカサイドも前日の南アフリカ戦での登板をチェックして持ち味を察知し、それを崩すべく重盗を仕掛けるなど、初回から目まぐるしく動いていた。
だが、林はここから徐々に冷静さを取り戻していく。
3番・ブコビッチを三振に仕留め、続くソダーストロムの犠飛で1点を失うも、この回は1失点でピンチを切り抜けた。
2回は7番のハルターに四球を与えたが、得意のチェンジアップが決まり始め、2三振を奪って2回1失点で降板した。
身長が180センチをゆうに超え、大柄な選手が並ぶアメリカ打線に対し、林は身長が170センチほどで体重も60キロ台前半。しかも韓国入りしてからは食事が合わないせいで体重が数キロ落ちてしまったという。タテジマの代表ユニホームの影響で一層スリムに見えるが、それを感じさせないピッチングの持ち味を最低限は見せられたように映った。
ただ、本人からすればもっと長いイニングを投げ、強打者をキリキリ舞いさせたかっただろう。試合後、絶対王者のアメリカに大勝して笑顔がはじけるチームの中で、林の表情は試合前のように冴えなかった。