U-18侍主将が戦って、冷静に感じたこと 「チームのため、いかに犠牲にできるか」

沢井史

状況を見て持ち味を発揮できる場面もあった

大きなプレッシャーの中でも「自分の役割を冷静に見つめられる選手」こそが、活躍できるのかもしれない 【写真は共同】

 ただ、やはり常につきまとっていたのは日本代表というプレッシャーだ。今年は特に世界一に強いこだわりを持ち、昨秋から新たな取り組みも行った上での大会だった。“勝たなければいけない”という思いは同じだが、坂下が冷静に思ったことがある。

「こういう大会でも、チームのためにどれだけのことを犠牲にできるかだと思いました。日本代表はすごいバッターの集まりで、みんなそれぞれが自分のチームでやってきたことへのプライドはあるし、プレースタイルもあります。でも、打てなくて自分のことでいっぱいいっぱいになって周りを見られていない選手も多かったです。

 それでも足のある選手は足をどんどん使っていけばいいし、バントなどでつないだり『俺が俺が』ではなく、状況を見て持ち味を発揮できる場面はありました。短期間で戦っていくチームなので、それが難しかったのかもしれないですけれど……」

 スーパーラウンドでは“負ければ終わり”という戦いが続く中、韓国戦は1点を争う展開に。タイブレークの延長10回裏、サヨナラ犠飛で韓国が勝ち、激戦にピリオドが打たれた。

 だが、この試合でも目立ったのは守備のミス。打撃が思うようにいかず守備に焦りもあったのか、表情から余裕のなさを感じる選手もいた。打てなくても自分に何ができるか。どうすれば勝ちに繋げられるか。前述の篠原のコメントのように、追いつめられても自分の役割を冷静に見つめられる選手こそが、舞台が変わっても活躍できる選手なのかもしれない。

次のステージでも侍のユニホームを

侍ジャパントップチームの稲葉監督(中央)と写真に収まる坂下(右)。今大会で得たかけがえのない経験が、坂下を“次のステージ”へ押し上げるだろう 【沢井史】

 世界一は果たせなかったが、世界の野球を目の当たりにできたことは収穫だった。優勝した台湾に関しては「野球がしっかりしていました。ボール球は振らず、しっかりコンパクトにバットを振ってくる。ミスショットが少なかったし、日本に近い部分がありました。日本戦で取られた1点は走塁で取られた1点。ああいう野球ができるのはすごい」。

 韓国戦は異なるタイプのピッチャーが代わる代わるマウンドに立ちはだかったが、「韓国のピッチャーはカウントを作るのがうまくて、決め球もちゃんと決められる。打つのが難しかったですね。自分の(3回の)見逃し三振はボールと思ったのに、しっかりストライクでした」。

 同世代では1人しか経験できない日本代表のキャプテンを務めたことが、坂下の履歴書に書き加えられる。

「すごい選手ばかりの中でキャプテンをやって、コイツにはどう言えば理解してもらえるのかを考えながらやってきました。こういう経験はめったにできない。成長させてもらったことばかりでした」

 帰国後、試合をテレビ観戦していた智弁学園のチームメートからは「翔馬じゃないみたいだったね」と声を掛けられたという。それだけ世界の舞台の難しさを肌で感じられたからこそ、次のステージでもまたこのユニホームを着たいという気持ちが強くなった。素顔は勝ち気で元気者のキャプテンだが、“野球熱”は誰にも負けない。だからこそ、最高の仲間と過ごした19日間を「良い経験になりました」では終わらせないつもりでいる。

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著者プロフィール

大阪市在住。『報知高校野球』をはじめ『ホームラン』『ベースボールマガジン』などに寄稿。西日本、北信越を中心に取材活動を続けている。

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