角居調教師が信じる凱旋門賞の“キセキ”「自信がないと海外には行けない」
現在の日本馬の高い能力を持ってすれば、いずれ勝てるレース
「凱旋門賞はいずれ日本馬が勝てるレース」と語る角居調教師 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】
「ヨーロッパ最大のグランプリレースだと考えています。それだけに勝つことは容易ではないですが、だからこそ楽しみなレースだという印象です」
――日本馬は過去に2着が4回。挑んでいる頭数を考えると、決して難攻不落の城ではないかと?
「現在の日本馬の高い能力を持ってすれば、いずれ勝てるレースだとは思います。ただ、これまで1頭も勝てていないというのも事実。何か理由があるはずですし、逆に言えばその理由が分かれば勝てるのかもしれませんね」
――角居調教師はヴィクトワールピサで2010、11年と挑戦。10年が7着、翌年は残念ながら本番前に戦線離脱となってしまいました。
「順調に使って勝つというのは、たとえ日本国内だとしても難しいことです。海外遠征となれば尚更。そう簡単には勝たせてもらえません」
――凱旋門賞に限らずですが、海外遠征を決断できる馬とそうでない馬との違いはどこでしょう?
「パドックで1人でも曳いて歩ける馬というのは最低限の条件でしょうね。つまりは精神的にしっかりした馬。そうでないと飛行機による長距離の輸送や環境の変化に対応できません。そのあたりに対応できないと、競馬へ行く前にギブアップせざるを得ないケースも出てきます」
――そういった見極めは簡単なことですか?
「そうとも限らないですね。ウオッカなども大丈夫と思いましたけど、海外では結果を残せませんでした。こちらが平気だと思っていても、実際に遠征したら意外と対応できなかった例があるのも事実です」
――そういう意味で、勝利した時は尚更評価できるわけですね。角居調教師はアメリカやオーストラリア、香港にドバイでも勝っていますが、最も思い出に残っている海外遠征というとどれになりますか?
「そうですね……。難しいですが、シチュエーションを考えるとやはりヴィクトワールピサで勝ったドバイワールドカップでしょうか。あの時は日本が東日本大震災の影響で大変なことになっていました。私自身、『こんな時に海外で競馬をしていていいのか?』と悩みましたが、『少しでも日本列島に勇気と希望を届けられる結果を出せれば』という思いで遠征に踏み切りました。結果、2着もトランセンドで日本馬によるワンツーフィニッシュを決めることができました。ゴール前はうちの馬が負けても同じ日本馬が勝つなら構わないと思ったくらい嬉しいワンツーでした。あのタイミングでこういう結果を残せたことが良かったです」
――ワンツーフィニッシュと言えば、デルタブルースとポップロックによる角居厩舎ワンツーのメルボルンC(06年)もありました。
「年齢を重ねてノンビリし過ぎている感じになっていたデルタブルースと、逆に少しピリピリした感じのポップロックは、どちらか1頭だけでは海外遠征ができなかったかもしれません。2頭ともに行けたことで好結果につながったのだと思います」
――当時、オーストラリアの長距離路線は今よりも手薄の感がありました。そのあたりも上手く狙って行ったように思えました。
「海外遠征では『うちの馬にとってどの点が有利か?』というのも大事な検討材料の一つだと考えています。例えばゲートの難しい馬ならゲートボーイの付く国の競馬へ連れて行くとか」
強敵もいる、だからといって無理だという気持ちはありません
キセキが持ち前のタフさを生かし、エネイブルら強豪欧州勢にひと泡ふかせることはできるか 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】
「自分としてはある程度の自信がないと海外には行けないと考えています。実際問題、国内で走るのと比べてかかってくるお金が多いですからね。使うだけとか、諦め半分でゴーサインを出せる海外遠征はありません」
――つまりキセキも大いに期待して良いということですね?
「先ほども言った通り、凱旋門賞は簡単に勝てるレースではありません。エルコンドルパサーやオルフェーヴルをしても勝てなかったし、今年はエネイブルやクリスタルオーシャンといった強敵もいるので、その図式は変わらないでしょう。でも、だからといって無理だという気持ちはありません」
――最後にファンの皆さんにメッセージをお願いします。
「一つの厩舎で200頭もいるようなヨーロッパの調教師に対抗しようと考えたら、日本勢は厩舎の垣根を越えてチームとして情報を共有できるのがベストかもしれません。ただ、国内で戦わなければいけないことを考慮すると、それもそう簡単にはいきません。それでも、凱旋門賞に関しては毎年のように日本馬が挑戦するのは恒例になった感があるので、少しでも情報を収集してストレスを軽減したいです。そうできたら、現在の日本馬の強さなら好結果を出せて不思議ではないと考えています。それが今年になれるよう、キセキとともに頑張りますので応援よろしくお願いいたします」
取材・文:平松さとし