寺田明日香の日本新を生んだ柔軟な思考
多忙な日々も「私にとって全部がプラス」
日本新記録をマークした寺田明日香。27日開幕の世界選手権の参加標準記録も突破した
日本新記録をマークした寺田明日香。27日開幕の世界選手権の参加標準記録も突破した【写真は共同】

 陸上の記録会「富士北麓ワールドトライアル2019」が1日、山梨・富士北麓公園陸上競技場で行われた。女子100メートルハードルのウォームアップレースでは、寺田明日香(パソナグループ)が12秒97(追い風1.2メートル)をマークし、日本新記録を樹立。寺田は8月17日に福井で行われた「Athlete Night Games FUKUI」で、金沢イボンヌの13秒00の日本記録に並んでいたが、それを0秒03更新した。27日にカタール・ドーハで開幕する世界選手権の参加標準記録(12秒98)も突破し、2009年以来10年ぶりとなる出場に大きく近づいた。

愛娘の果緒ちゃんも祝福

 電光掲示板に正式タイム「12.97」が表示されると、寺田は両手を天に突き上げて喜びを爆発させた。「今日が(世界選手権への)ラストチャンス。タイムが出るという感じはしなかったけれど、スタートがいい感じに出てくれました。『(12秒)98、99だったらどうしよう』と不安もありましたが、タイムを見た瞬間に『超えたー!!』と思いました」。レース後、スタンドから手を振る愛娘の果緒ちゃんへ、表彰で受け取った花をプレゼント。「ママ、おめでとう!」の祝福に、最高の笑顔で応えた。


 課題としていたスタートが決まった。日本タイ記録を出した8月17日の大会では「よいしょ、という感じで出ていた」と、スムーズな加速につなげる入り方ではなかったという。そこでこの日は「(コーチの)高野(大樹)さんとも話した通り、1台目だけを意識しました。思いっきり出ることだけを考えた」と、スタートから勢いよく飛び出した。スムーズに出られたおかげで「中間部分はリラックスして、足が自然に回るのを止めないように走りました」。追い風にも背中を押されるままに、自然体で加速し、速度を落とさずにゴールテープまで駆け抜けた。

多くの経験を経て身についた、柔軟な考え方

「1台目だけを意識」し、自然体で加速することに成功。快挙達成に結びつけた
「1台目だけを意識」し、自然体で加速することに成功。快挙達成に結びつけた【写真は共同】

 13年に一度陸上を引退し、翌年に果緒ちゃんを出産。その後、東京五輪を目指して7人制ラグビーに挑戦したが、今年6年ぶりにトラックへと帰ってきた。数々の経験を積むなかで、自身の体も、取り巻く環境も大きく変わった。そのため練習も、陸上に取り組む上での考え方も、以前とは違うアプローチで取り組んでいる。


 普段の練習は1週間のうち3、4日行う。午前中はウエートトレーニングや、標高2000〜2500メートルの高地を想定したサイクリングなど、体力面が中心。午後はトラックでの練習を重点的に行う。また、寺田が勤めるパソナグループでの業務をこなすために、練習のない日は打ち合わせや、社内での取材にも対応。その上で料理など、家事も並行してこなしている。陸上、仕事、そして子育てと“ママハードラー”として大忙しの毎日を送るが、寺田はこう語る。


「私にとっては、全部がプラスになっています。子どもがいるから頑張れる。練習も今は『楽しい』という感情しかないです。もちろんきついメニューもあるけど、その中でもどこかに遊びの要素を入れてやるようにしています」


 また、7人制ラグビーで「曲がる」「止まる」といったハードルにはない動きを練習したことによって、筋肉をどう使えば効率良く前に進むのかを学ぶことができた。当時、積極的に取り組んでいた筋力トレーニングは、上体の安定感を身につけるのに役立った。こうした経験があったから「いろんな方からアドバイスをもらって、それをポジティブに捉えられるようになった」。さまざまな出来事から、自分にとってプラスになるものを選び取れるようになったことが、日本新につながったと言えるのではないだろうか。

世界陸上では「12秒84を出したい」

 日本女子としては初となる12秒台に到達したことについては、「私がこんなことを言うのはおこがましいかもしれませんが……」と前置きした上で、「陸上から離れていた6年間、女子の短距離の時が止まっていたような気もします。その針を少しでも動かせたことは、復帰した意味があるんじゃないかなと思います」。記録を塗り替えたことに対する意義を、静かに語った。


 出場が決まれば10年ぶりとなる世界選手権へ向けて、「きょうはうれしいけれど、目指すのはもっと先。大きい舞台でも、これくらいのタイムを出さないといけないと思います。あわよくば(東京五輪の参加基準である)12秒84を出したい」と意欲を見せた。前回のロンドン大会では、12秒86が決勝への進出ラインだっただけに、目標とする84を出せれば、世界のファイナリストも見えてくる。快挙を達成した喜びよりも、寺田は世界の大舞台を見据えている。


(取材・文:守田力/スポーツナビ)

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