Jリーグのアナリスト養成所!? 筑波大学蹴球部のデータ分析術

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Jリーグクラブで活躍するアナリストを多く輩出している筑波大学蹴球部の取り組みとは? 【footballista編集部】

 大学を人材育成機関と捉えた場合、Jリーグクラブで活躍するアナリストを多く輩出していることは、大きな成果と言えるだろう。なぜ筑波大学蹴球部は優秀なアナリストを育てることができるのか? その理由を探るべく、小井土正亮監督とデータ班で活躍する4年生スコット・アトムさんの2人に話を聞いた。

筑波大学の伝統「一人一役」

 2014年、小井土氏が筑波大学蹴球部の監督に就任した際、まず取り組んだのは組織体制の整備だった。筑波大学の伝統である「一人一役」を継承する形で在籍する150名以上の部員全員に明確な役割を与え、主体的に行動することを求めた。現在、筑波大学蹴球部は12のセクションで構成されている。ホームページ作成やSNSの運用を担当する「広報局」や、スポンサー獲得活動を担う「プロモーションチーム」など、部員は必ずいずれかのセクションに所属し、ピッチ内外において筑波大学蹴球部の価値向上のために活動している。

 そうした中、注目度が高まっているのが監督直轄のセクションである「パフォーマンス局」だ。同セクションはデータ班、アナライズ班、ビデオエディット班、トレーニング班、フィットネス班、メンタル班、用具班、栄養班で構成されている。特に試合分析を担うデータ班は同大学の天皇杯での躍進など好成績の要因として多くのメディアでも紹介された。小井土氏自身が清水エスパルスやガンバ大阪といったJリーグクラブでデータ分析を担当していたキャリアもあり、“監督肝入り”の班といっても過言ではない。

「データ班」とは?経緯は学生の提案

データ班で活躍するアトムさん。「環境的に筑波大学は恵まれている」と話す 【footballista編集部】

──まずはデータ班を組織した背景を教えていただけますか?

小井土 「まずデータ班のミッションはスタッツ、数字でゲームを表現するということ。アトムもそうですが、蹴球部には情報学類という数字を扱う研究領域を専門にする学生がいて、映像編集だけではない形でチームを表現することに挑戦したいという彼らの主体的提案が契機になっています。もともとは高橋朋孝という現在はデータスタジアム社で働いている人間が発起人。今でもよく覚えていますが『これからの時代はデータ分析のスキルを持っていれば仕事につながるので、われこそはと思う者はやってくれ』と、蹴球部内で仲間を集めて。当時はまだ筑波大学からサッカーのデータ関連の職に就く卒業生もいなかったので、周りにとってはリアリティーがなかったと思うのですが。今のデータ班があるのは当時彼らが行動を起こした結果。だから、今でもデータ班の活動は私の指示ではなく『そんなこともできるの? やってみて』というスタンスです」

──分析したデータはどのようにチームに活用されていますか?

小井土 「データを出すことで新しい気づきはありますね。実際にプレーする選手たち自身が(データ)分析も行っている点も重要で。例えば、ポゼッション率。プレーした選手たちはボールを持てた印象を持っていても、アタッキングサード、ミドルサード、ディフェンディングサードとエリア別のデータを見ると『自陣で回していただけか』など意識とのズレを発見することはあります」

──ポゼッション率など、そうしたスタッツはどのように取得されていますか?

アトム 「試合を録画した映像を見ながら、僕たちが定義した各スタッツのプレーが発生したら映像を止めてエクセルに入力して……これの繰り返しです。アナログな作業で1試合のデータを取得するのに早くても6時間、平均して8時間程度はかかりますね」

──昨今Jリーグではリアルタイム分析ツールを導入して、ハーフタイムに前半の映像を使用したフィードバックを行う事例も出てきていますが、即時性についてはどのように捉えていますか?

アトム 「データ班として現在取り組んでいるのがまさにその部分です。なるべく早くデータを提供すべく今年からSPLYZA社の『SPLYZA Teams』を導入しました。このツールを使うと試合中にある程度のスタッツを取得することができるので。ただ、(スタッツを入力するのに)キーボードのショートカットが使えない課題があったので、そこの改善を提案しましたし、キーボードではなく声で入力できたらよりスムーズになるなどSPLYZAの社員さんとはいろいろ話しています。僕の代で完成しなかったとしても後輩たちが引き継いでくれるはずです。あと、筑波特有なのかもしれませんが、選手はGPSをつけて試合を行っているので、そこから取れた位置データとスタッツを結びつけることができるような開発も行っています。先日もSPLYZA社がある浜松まで行って3日間議論しました」

小井土 「今年、データスタジアムの方に今、Jリーグクラブではどのように分析の作業が行われているのかを学生に対してレクチャーしてもらった時にも即時性は強調されていました。映像ベースで速やかに分析するスキルが求められる時代なので、その力をつけてもらうトレーニングを大学でもしなければと思っています」

──筑波大学のこのような取り組みは小井土監督が清水やG大阪でデータ分析を担当されていたキャリアがチームに反映されている側面があるように感じます。

アトム 「そうですね。他大学にもデータ分析に関心を持っている友人はいるのですが、それを指導できる監督がいないみたいです。僕が1年生の時、今振り返ればむちゃくちゃなデータ分析の図を小井土監督に見せたことがあったのですが『面白いな』と受け入れてくれました。その上で実際に使えるレベルにするためのアドバイスもいただけるので、自然と努力するモチベーションが生まれます。環境的に筑波大学は恵まれていると思います。筑波に入学しなければ今の自分はなかったと思うので本当に感謝しています」

小井土 「私にはない発想でデータ分析を試みている学生たちは素晴らしいですよ。データ班は自主性を持った学生たちが在籍する筑波大学だからこそ成立しています。その上で私もJリーグでの経験を生かして、日本のトップカテゴリーで求められる基準を学生たちにフィードバックはしています」

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