久保のA代表デビューと初の3バック導入 2連戦で得た収穫をコパへつなげられるか

宇都宮徹壱

3バックが機能し、久保がデビューを果たしたエルサルバドル戦

この日2ゴールの永井は9年がかりのA代表初ゴールを挙げた 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 6月9日のエルサルバドル戦のスターティングイレブンは、以下のとおり。GKシュミット。DFは昌子をセンターに冨安と畠中の3バック。ワイドは右に伊東、左に原口。ボランチには小林と橋本拳人。FWはシャドーに堂安律と南野拓実、そしてセンターに永井謙佑である。GKと3バックは変わらず。両ワイドには、前回よりもより攻撃的な選手が起用された。ボランチはフレッシュな顔合わせとなり、センターFWの永井は4年ぶりのスタメン。そしてキャプテンマークは、昌子の左腕に巻かれた。

 この日の日本は、見違えるように新システムが機能した。先制点は前半19分。冨安が右サイドから持ち上がって前線にスルーパス。すぐさま反応した永井は、ゴールライン手前で巧みに切り返して相手DF2人を振り切り、左足でネットを揺らす。永井は2010年の代表デビュー以来、A代表では実に9年をかけての初ゴール。前半41分には、永井に2ゴール目が生まれる。畠中からのロングパスに、今度は原口が反応してマイナスに折り返し、今度はダイレクトで合わせて追加点を挙げる。

 決めた永井も確かに素晴らしかった。と同時に、2ゴールともセンターバックが起点となっていたことに、森保監督は大いに手応えを感じたことだろう。そしてもうひとつ、忘れてならない伏線となったのが、前半6分と15分に伊東が見せたドリブル突破。エルサルバドルの守備陣が、日本の右ワイドに注意を払うようになった結果、永井の自由度が増して持ち味をいかんなく発揮することができた。ただし残念なことに、2ゴールを決めた永井は肩を痛めてしまい、大迫と交代で後半14分にベンチに退いてしまう。

 ここで興味深かったのは、永井と一緒に伊東と畠中も交代となり、代わって室屋と山中亮輔が投入されたことである。日本のディフェンスラインは、3枚から4枚に変更。さらに22分には南野と原口に変えて、中島と久保がピッチに送り込まれる。A代表デビューとなった久保は、トップ下のポジションでプレー。後半のシステム変更については、久保のやりやすさを引き出すため、という可能性も考えられた。しかし森保監督は「臨機応変に柔軟に対応できるかというところで、わざと試合の中でシステムを変えた」としている。

 注目の久保は後半28分、大迫のポストプレーを右サイドで受けると、相手DFをドリブルで一気に抜き去ってボックス内から左足でシュート。弾道は相手GKヘンリー・エルナンデスに阻まれるも、後半で最もスタンドを沸かせたのはこのシーンであった。結局、試合はそのまま2−0で終了。エルサルバドルも果敢に戦ったが、シュート数が1本しかなかったことからも実力差は明らかであった。そして日本は、北中米カリブの2チームに1勝1分けという戦績で、当初は話題性の乏しかった6月のシリーズを終えた。

強化の継続性はコパ・アメリカでも保たれるのか?

久保(27番)のデビューや3バックの導入などうれしいトピックスもあった2連戦。コパ・アメリカにもつなげられるか 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 今回の2試合の相手について、あるいは物足りなさを感じたファンもいたかもしれない。とはいえ、欧州勢はユーロ(欧州選手権)予選、南米勢もコパ・アメリカを控えて調整中。そんな中、トリニダード・トバゴにしてもエルサルバドルにしても、ゴールドカップの直前に遠く日本まで足を運び、ベストを尽くしてくれたことには感謝すべきであろう。そんな中で日本は、3バックを試すことができたし、永井の2ゴールや久保のデビューなど、うれしいトピックスもあった。終わってみれば、悪くない2試合だったと思う。

 問題は、ここで得た収穫をいかにコパ・アメリカにつなげるかである。メンバーが大幅に変わることについて、森保監督が「少しでも手応えが得られるチャレンジをしていきたいと思います」と語れば、久保も「自分や中山選手や冨安選手、(A代表と五輪代表)両方を経験している選手の役目も大事になってくる」とコメント。すでに気持ちはブラジルでの戦いに切り替わっていることが、こうした力強い言葉からもうかがえる。若い世代の台頭が期待できるという意味でも、コパ・アメリカは非常に楽しみな機会ではある。

 もっとも、新たなラージグループの形成という魅力がある一方、ここまでA代表が積み上げてきた継続性がリセットされてしまうリスクが否めないのも事実。メンバーが大きく入れ替わっても、チームとしての継続性を確認するためには、やはり明確な指標を準備しておくべきだろう。そこでコパ・アメリカに挑む日本代表について、独自に7つのチェックリストを設けた上で、現地での取材に臨むことにしたい。7つの項目は以下のとおり。

(1)各ポジションの世代交代は進んでいるか?

(2)チーム内の競争は健全に働いているか?

(3)監督の考えるコンセプトは浸透しているか?

(4)攻撃面でのバリエーションは増えているか?

(5)守備面での共通理解は進んでいるか?

(6)監督の采配や選手交代は的確か?

(7)試合状況や実力差に応じた戦いができているか?

 もちろん現時点で評価を導き出すことも可能だが、(6)や(7)については真剣勝負のコパ・アメリカだからこそ、その真価が明らかになるはずだ。グループステージで対戦するのは、チリ、ウルグアイ、そしてエクアドル。五輪世代が中心となるメンバーが、これら南米の強豪とアウェーの地でどれだけ戦えるのか。ただ善戦をたたえ、来年の東京五輪への期待を膨らませるのではなく、あくまで見据えるのは3年後のW杯。そのスタンスを崩すことなく、若き日本代表の挑戦の行方を見届けることにしたい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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