機は熟した。クロップのリバプールがCL決勝で大輪の花を咲かせる
常に前向きで、ポジティブなクロップという男
大逆転で決勝進出を果たしたリバプール。決勝のポイントは? 【写真:ロイター/アフロ】
第1戦を0−3で落としていたリバプールは、文字通り崖っぷちにいた。第2戦はホームで戦える利点はあるが、相手は優勝候補のバルセロナ。しかも、リオネル・メッシやルイス・スアレスらを擁するバルセロナにアウェーゴールを1つでも許せば、リバプールは最低でも5ゴールを奪わなければならない。加えて、得点源のモハメド・サラーとロベルト・フィルミーノを、それぞれ「脳振とうによるコンディション不良」と「けが」で欠くという不測の事態でもあった。
しかし、ホームであるアンフィールドの住人たちの大声援を受けたリバプールは、凄まじい集中力と団結力を見せた。前半を1−0で終えると、後半に3点を加えて劇的な勝利をつかんだ。2試合合計で4−3の大逆転勝利である。試合後の英メディアは「アンフィールドの奇跡」とうたい、リバプールの奮闘を最大級の賛辞でほめたたえた。
リバプールの今季を語る上で欠くことのできないこの一戦で、筆者は記憶に残っているワンシーンがある。リバプールが3−0でリードしていた後半16分のことだ。右サイドバック(SB)のトレント・アレクサンダー・アーノルドが縦に速いパスを入れた。しかし、前方にいたジェルダン・シャキリに合わず、ボールはタッチラインを割ってしまう。
残り時間は約30分。失点したら勝ち抜けが難しくなる状況は変わらない。ボールロストしたことで、「もう少し慎重にいった方がいいのでは」と思った。
ところが、テクニカルエリアにいるクロップに目を移すと、様子はまったく違った。「それでいい」と言わんばかりに、固めた拳を振って「もっと前に、もっと前に」と奮起を促している。そして、ミスをしかることなく、20歳の右SBのチャレンジを大きく拍手してほめた。練習場や更衣室でも、同様の振る舞いで選手たちを鼓舞しているクロップの姿が容易に想像できた。
いま一度思い返すと、このシーンにクロップ体制の強さの秘密が隠されている気がしてならない。記者会見も、試合中も、そして敗戦後であっても、クロップという人物はいつだって前向きである。天井知らずの「スーパーポジティブな人物」と言ってもいい。
クロップに感化された選手たち
クロップのもと、選手たちは不屈のメンタリティーを育んできた 【写真:ロイター/アフロ】
こうしたポジティブな考えは、組織にいる周りの人間に伝染していくものだ。それが、チームを引っ張っていく長(おさ)であれば、なおさらである。主将のジョーダン・ヘンダーソンが「監督が最後まで戦い続ける信念を根付かせてくれた」と語れば、ジョルジニオ・ワイナルドゥムも「4−0で勝つと信じていた」と胸を張る。選手たちが、クロップに感化されているのは明らかである。
クロップの下で選手たちはミスを恐れることなく、自分のストロングポイントを示そうと果敢にチャレンジする。そして、勝利という成功体験を重ねることで、決して諦めない不屈のメンタリティーを育んでいったのは想像に難くない。
「育成の天才」「父性が強い」「真のリーダー」と、クロップが言われる理由を見た気がした。
決勝までの足取りは苦戦の連続
CL初戦で劇的なゴールを決めたフィルミーノ(右)。決勝までの足取りは苦戦の連続だった 【写真:ロイター/アフロ】
難敵と同居したグループリーグでは、初戦でパリ・サンジェルマン(PSG)と対戦。2−2で迎えた後半アディショナルタイムにフィルミーノが劇的な決勝ゴールを奪った。クロップがタッチライン際を爆走し、アップ中の控え選手を吹っ飛ばす勢いで抱擁したのが印象的な、まさに薄氷の勝利だった。
さらに、2節ナポリ戦(0−1)、4節レッドスター戦(0−2)、5節PSG戦(1−2)と、悪夢のアウェー3連敗を喫した。5節終了時の順位は3位で、グループリーグ(GL)敗退の危険もあった。
しかし、クロップ率いるリバプールは決して諦めない。最終節ナポリ戦はサラーの決勝ゴールで逃げ切った。ナポリとは勝ち点9で並び、直接対決の成績も総得失点差も同じだったが、総得点で上回って2位突破を決めた。まさに、瀬戸際でつかんだ決勝トーナメント進出だった。サポーターにとっては胃が痛くなるような試合が続いたが、不屈の精神で乗り超えてきたのだ。