機は熟した。クロップのリバプールがCL決勝で大輪の花を咲かせる
決勝で攻守の鍵を握る両SB
アレクサンダー・アーノルド(右)とロバートソンの両SBが攻守の鍵を握る 【写真:ロイター/アフロ】
特に、目を見張るほど安定感を高めたのが守備陣だ。「クロップ政権の弱点」と指摘されてきたGKに、ブラジル代表のアリソンが加わった。神がかったセーブを連発した準決勝バルセロナ戦を筆頭に、勝利する以外になかったGL最終節のナポリ戦でも、試合終盤に許した決定的なピンチをブロック。クロップが「命の恩人」と頭を下げたスーパーセーブでチームの危機を救った。
その前方で、最終ラインを束ねるのが大黒柱のフィルジル・ファンダイク。強さ、高さ、巧さを兼ね備えたオランダ代表センターバック(CB)は、自身の背後にボールが入っても、素早いカバーと読みの良さで突破を許さなかった。この強固な守備ユニットのおかげで、国内リーグの失点は昨シーズンの「38」から、今季はリーグトップの「22」に激減した。
彼らの両脇を上下動するSBの存在も忘れてならない。国内リーグ戦でアレクサンダー・アーノルドは12、左サイドのアンドリュー・ロバートソンは11のアシストをマーク。両SBがそろって二桁アシストを記録したのはプレミアリーグ初のことである。クロップが志向する攻撃サッカーを見事に体現してみせた。
直近に行われたCL決勝の相手であるトッテナムとの対戦(4月1日の第32節)で再三チャンスを作り出したのも、両SBだった。相手3バックの両脇を突き、大外を駆け上がってクロスボールを入れることで、フィルミーノの先制点につなげた。ただし、トッテナムが4バックに変更した後半から、SBの背後を使われたのも事実。SBの2人が、攻守両方で決勝の鍵を握るかもしれない。
ロングフィードの活用も重要なポイント
サラー(左)とマネ。2人のスピードスターを生かすロングフィードもポイントのひとつ 【写真:ロイター/アフロ】
彼らと適切な距離感を保ちながら、偽9番として動き回るフィルミーノは、中盤まで降下したり、サイドに流れてパスの出しどころを創出。そこから優れたパスセンスを生かし、サラーとマネのスピードスターにラストパスを供給する。意外性のある足技で敵の意表を突くのも得意で、クロップ体制における戦術上のキーマンになる。
3人で構成されるMFは、強さと激しさ、運動量の多さがストロングポイントだ。新戦力のナビ・ケイタ(けがで決勝は出場不可)とファビーニョはプレミアへの適応に時間がかかったが、試合を重ねるごとに存在感を発揮。ワイナルドゥムやヘンダーソン、ジェームズ・ミルナーと高レベルでのローテーションを可能にした。特に、ファビーニョは長短のパスを自在に使い分け、攻撃に奥行きを加えた。
この3MFと3トップが連動しながら「ゲーゲンプレス」を仕掛ける。ボールを失った瞬間から相手ディフェンスにプレスをかけ、敵のゴールに近い位置でボール奪取を試みる、クロップ戦術の代名詞だ。
それだけではなく、今季は戦い方の幅も広げている。最終ラインから対角線上に入れるロングフィードは、そのひとつ。陣形の重心を低い位置に置いたまま、スピードスターのサラーやマネに長いパスを入れることで、攻撃のギアを一気に上げる。奇しくも、決勝の相手であるトッテナムは、ハイライン&ハイプレスを得意としている。彼らのプレスの網をかい潜る意味でも、またハイラインを突く意味でも、このロングフィードが攻守両面でポイントになりそうだ。
心をひとつに、モチベーションは高い
「プレミアリーグ史上、最高の優勝争い」と呼ばれた今季のプレミアで、リバプールは首位マンチェスター・シティとわずか1ポイント差の2位で涙をのんだ。2位のチームとして「勝ち点97」はプレミア史上最多で、29年ぶりとなる国内制覇に、あと一歩のところで手が届かなった。だからこそ、欧州制覇を実現し、悔し涙をうれし涙に変えたい。
しかも、CL決勝進出は、昨季に続いて2季連続となる。決勝でレアル・マドリーに屈したのが、ちょうど1年前。セルヒオ・ラモスと交錯するように倒れたサラーが左肩を脱臼し、前半25分に交代を余儀なくされ、遺恨を残した。サラーが「ファイナルで決勝弾を挙げたい」と語るように、リバプールは1年前の悔しさを晴らそうと心をひとつにしている。
そして、クロップにとっても、キャリア3度目のCLファイナルを迎える。ドルトムント監督時代の12−13シーズン、さらにリバプールの監督として挑んだ昨シーズンも、栄冠を目の前にしながらつかめなかった。もちろん、どこまでも前向きなクロップのメンタリティーから言えば、「2度あることは3度ある」ではなく、苦難の経験をたくましさに変えて「3度目の正直」を目指す。
チームのモチベーションは高い。クロップのもと、大輪の花を咲かせるか 【写真:ロイター/アフロ】
後半34分のCK。バルセロナの集中が完全に切れていると判断したアレクサンダー・アーノルドは、素早くゴール前に入れ、ディボック・オリギの決勝弾をアシストした。繰り返すが、アレクサンダー・アーノルドはまだ経験の浅い若手である。例えば、クロップがミスを激しく叱責するような指揮官なら、20歳の若者がCL準決勝の大舞台で、あの大胆な決断は下せなかったと思う。
機は熟した。クロップが種を巻き、約4年の歳月をかけて丁寧に育て上げてきたリバプールは今、大輪の花を咲かせようとしている。いや、咲かせるに違いない。魂を揺さぶられる今季の充実した戦いぶりを目にすると、そう強く思わざるをえないのだ。