CL決勝でトッテナムに求められる「集中力」と「自己制御」

山中忍

今季のCLは、逆境に次ぐ逆境での戦い

CLで逆境に次ぐ逆境での戦いを制してきたトッテナム。決勝のポイントは? 【写真:ロイター/アフロ】

「周りは誰も、われわれに勝ち目があるとは思っていなかったのに」と、トッテナムのマウリシオ・ポチェッティーノ監督は言った。アヤックスとのチャンピオンズリーグ(CL)準決勝第2レグ終了直後のこと。ただし、ホームでの第1レグに0−1で敗れたハンディをはね除け、劇的にクラブ史上初となる決勝進出を決めた試合だけを振り返った発言ではない。開幕からひたすら自分たちを信じて勝ち上がってきたチームへの誇りが、感極まった表情の指揮官にそう言わせたのだ。

 トッテナムにとっての今季のCLは、逆境に次ぐ逆境での戦いだった。バルセロナとインテルと同じグループBに入った瞬間から望み薄とされた。実際に両チームとの初戦に敗れ、PSVとも引分けに終わった時点では、グループステージ敗退さえ予想された。しかし、主砲ハリー・ケインの2得点で逆転勝利を収めた第4節のPSV戦を皮切りに、リターンマッチでは黒星なし。最終節バルセロナ戦で1ポイントを奪い、際どくグループ2位通過を果たした。

 決勝トーナメント1回戦ではボルシア・ドルトムントを無難に退けたが(2戦合計4−0)、続く準々決勝では、相手のマンチェスター・シティから「くじ運に恵まれた」と言われた。しかも、最終的にアウェーゴールが勝敗を分けた2試合は災難続き。ホームでの第1レグでは、ビデオ判定による酷なPKを守護神ウーゴ・ロリスが止め、ソン・フンミンのゴールで先勝を収めたが(1−0)、ケイン、デレ・アリ、ハリー・ウインクスの主力3名がけがでピッチを去った。第2レグ(3−4)では、終了間際の相手ゴールを取り消すオフサイドのビデオ判定に救われたものの、敵地でも2得点でケイン戦線離脱の穴を埋めたソン・フンミンが、警告累積により準決勝第1レグで出場停止となった。

 そのアヤックスとの初戦はホームで零封負け(0−1)。第2レグでも、あろうことか前半に2失点。だが、ここでも不屈のチームスピリットが物を言った。合計3点のビハインドで迎えたハーフタイム中、ポチェッティーノは、前夜のバルセロナ戦で3点差から蘇ったリバプールの「奇跡」に言及して奮起を促したという。すると、ケインの代わりに先発したルーカス・モウラがハットトリック(3−2)。アウェーゴールによるトッテナム勝利を意味する土壇場の3点目は、やはり控えFWのフェルナンド・ジョレンテが放ったシュートがきっかけでもあった。

 そして、現地時間6月1日にマドリードで開催される“プレミアリーグ・ファイナル”でも、メンタルの力が必要になる。国内での今季リーグ順位からして当然ではあるが、巷ではリバプール優位との見方が強い。リーグ戦で4位のトッテナムと、2位リバプールとの間には、26ポイントもの開きがある。互いに攻撃を身上とするが、リーグでの得点数でも22点差をつけられている。2度の直接対決も、僅差だが相手に軍配が上がった(いずれも2−1)。CLの世界においても、通算6度目の欧州制覇を狙うリバプールは2年連続の決勝進出。トッテナムは、過去4ラウンドと同様に反骨心を見せなければならない。

けが明けのケイン「準備はできている」

「準備はできている」と語るケイン(左)。指揮官の起用法はいかに 【写真:ロイター/アフロ】

 チームにとってキーマンを超えた重要性を持つケインに関しても、「気概」がキーワードだ。準々決勝での負傷により、残りのプレミアリーグへの出場が絶望となったチーム得点王は、欧州での今季最終戦となるCL決勝に照準を絞って調整を進めてきた。反面、周囲にはベンチスタートが得策だとする意見が多い。互いに譲らない一発勝負が、延長戦からPK戦へともつれ込む可能性も高いことから、最も決定力のあるストライカーの途中出場には一理あるが、一番の理由は2カ月近い実戦でのブランクに他ならない。

 ケイン自身は、決勝5日前の時点で「チーム練習もフルにこなしているし、準備はできている」と語り、先発可能をアピール。マッチ・フィットネス不足を危惧する声もあるが、トッテナムでのキャリアにおける過去最大のビッグゲームで体を駆け巡るアドレナリンが、25歳の生え抜きエースにプラスアルファの力を与えてくれることだろう。無論、最終判断を下すのは指揮官だが、故障明けでも、コンディションに問題がなければ先発起用を厭わないのが、「世界最高クラス」とまで評価するセンターFWに対するポチェッティーノのスタンス。自らも初体験となるCL決勝の晴れ舞台に、頭からケインを送り出す決断は想像に難くない。

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著者プロフィール

1966年生まれ。青山学院大学卒。西ロンドン在住。94年に日本を離れ、フットボールが日常にある英国での永住を決意。駐在員から、通訳・翻訳家を経て、フリーランス・ライターに。「サッカーの母国」におけるピッチ内外での関心事を、ある時は自分の言葉でつづり、ある時は訳文として伝える。著書に『証―川口能活』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『フットボールのない週末なんて』、『ルイス・スアレス自伝 理由』(ソル・メディア)。「心のクラブ」はチェルシー。

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