趣向を凝らしたホームゲーム、その効果は 新生Vリーグを振り返る<集客編>

田中夕子

「ビジネス化」を推進した新生Vリーグ

連覇を遂げたパナソニックパンサーズ(写真)。ホームゲームには昨年以上に力を注いだという 【写真は共同】

 京阪電車の枚方公園駅の改札を出るとすぐ、案内の大きな声が聞こえる。
「パナソニックアリーナ行きのシャトルバスはこちらから乗れますよ」

 Vリーグ・レギュラーラウンドの最終節、連覇を遂げたパナソニックパンサーズが普段練習するホームアリーナで開催されたホームゲームの一幕だ。体育館入り口の前には子供も楽しめる的抜きゲームや近隣の飲食店ブースが並び、Tシャツやタオルなどグッズも販売されている。

 試合が始まれば会場MCに合わせ、チアリーダーが先導する応援と音楽でホーム感を演出。昨年以上に力を注いだ、というホームゲームは試合開始前、そして試合の最中も盛り上がりを見せた。

 新生Vリーグとしてスタートした今シーズンで、一体何が変わったのか。

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 競技力以上に目に見える形での変化の1つが、各チームによるホームゲームだろう。ビジネス化の推進を掲げ、これまでは試合の興行権や運営が各都道府県協会に譲渡されていたが、今季からは各チームが担う。利益が生じればそれだけチームにとってはプラスとなる反面、利益が出せなければマイナスも背負う。少しでも目や興味を引き、多くの人に足を運んでもらうために何をすべきか。各チームが趣向を凝らし、さまざまなホームゲームを展開した。

 もちろんそこには企業やクラブ、各チームによって資金も異なり、携われるスタッフの数に違いもある。その中でいかに独自色を出すか。たとえばJTサンダース、JTマーヴェラスはSNSやホームページでオリジナルの動画を流し、選手のキャラクターをアピールすることに重点を置いた。これは選手たちからも「面白い」と注目を集めた。

 豊田合成トレフェルサはホームゲーム時のイベント開催に加え、セカンドホームの富山・氷見市で開催するホームゲームに向けた名古屋発の応援ツアーを敢行。ジェイテクトSTINGSもセカンドホームの徳島市で開催したゲームでは、駅から体育館に続く商店街にポスターやのぼりを立て、浅野博亮や西田有志など日本代表でも活躍する選手の出場をアピール。普段はバレーボールになじみが薄かった地元の人たちにも「今日はバレーボールの試合があるんだ」という意識を植え付けた。

選手や監督が自ら設営、VC長野の工夫

開幕戦となったサントリーとJTの試合では、プロジェクションマッピングによるオープニングセレモニーが行われた 【写真は共同】

 他にも、会場ではさまざまな工夫が凝らされた。開幕戦となったサントリーとJTの試合ではプロジェクションマッピングによるオープニングセレモニーを開催。これまでもホームゲームに注力してきたサントリーは、東京、熊本、大阪でそれぞれ地域と連携したイベントを行い、試合中の応援スタイルも、従来の応援団による先導型ではなく、ホームゲームを運営するスタッフとともに会場の一体感を作り出す新たな形を取り入れた。

 スマホを活用することで、アリーナスポーツでは初となる、会場で楽しめる企画を演出したのはFC東京だ。NTTブロードバンドプラットフォームと連携し、試合会場にフリーWi−Fiを設置し、特設ページにアクセスすることで当日限定の動画や画像を提供。試合後にはチームからサンクスメールが送られる仕掛けを展開した。ただサービスを提供するだけでなく、実際に使用したファンが次はどんなことを求めているのか、といったマーケティングにも活用した。

 そしてもう1つ、特筆すべきは今季V1リーグに昇格したVC長野トライデンツだ。大半が企業母体のVリーグのチームの中で、長野市南箕輪村をホームとするVC長野は、それぞれの選手が異なる職場で仕事に就き、業務後に練習をしている。

 チームは複数スポンサーによる支援を集めているが、大企業からの予算が確保できる他チームとはかけられる資金力が違う。だが、そんな状況をマイナスに捉えるのではなく、クラウドファンディングでシャトルバスの運行を実現させ、松本市で開催されたホームゲームは選手や監督が自ら設営、運営に携わり経費を削減。グッズの種類も豊富で「この選手が一番人気なんですよ」と笑顔で接客する地元のボランティアも、ホスピタリティー精神に溢れていた。

 目標としてきたトップリーグ昇格を果たし、今季限りで監督を勇退。今後は運営面に専念するという笹川星哉氏はこう言う。

「成績、勝敗だけを見れば1勝26敗。まだまだ力不足は否めませんでした。でも開幕以来、積極的に地元へアピールし、会場でもできることをすべてやろう、と取り組んだことで、ホームゲームの集客は減ることなく増加した。それはクラブとして胸を張れることだと思います。今後は地元でも試合を行うことができるような仕組みづくりを含め、完全ホーム&アウェーになってからこそ生きるような、まさに『おらが町のクラブ』として先頭に立ちたいです」

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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