趣向を凝らしたホームゲーム、その効果は 新生Vリーグを振り返る<集客編>

田中夕子

バレー×バスケで新たな展開を行ったPFU

石川県をホームとするPFUブルーキャッツは、バスケットボールとの連携を行った 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 数年前から観客数の減少を食い止めるために、さまざまな工夫を凝らしてきた男子チームと比べると、女子チームはいささか遅れをとった感がある。だが、デンソーエアリービーズやトヨタ車体クインシーズなど、同じ愛知をホームとする両チームは「愛知ダービー」と銘打ったポスターやチラシを選手が配り、コートサイドのドリンク付きチケットや、家族連れでも楽しめるこたつシート、選手発案のオリジナルメニューをカフェで販売するなど新たな試みを取り入れた。

 加えて、いかに新規のファンを開拓できるか、という面では男子のジェイテクト、豊田合成やヴィアティン三重と同会場で同日開催のホームゲームを展開。同じ愛知県や東海地方をホームにするチーム同士で、競い合うだけでなく協力し合うことで新たな展開につなげて、集客力の向上を目指した。

 バレーボールだけでなく、他競技と連携し、バスケットボールのホームゲームと同時開催したのが石川県をホームとするPFUブルーキャッツだ。昼間は女子バレーPFUのホームゲームを行い、夕方からはBリーグ・金沢武士団の試合が行われ、どちらかのチケットを持っていればバレーボールもバスケットボールも観戦が可能。さらに試合間の空いた時間は地元石川を本拠地とする野球やバドミントンなど、他競技の選手やチームが一堂に会し、子供向けのスポーツイベントやトークショーを行うなど、1日中体育館でスポーツが楽しめる環境を作った。

 仕掛け人となったPFUの藤田徹部長はその狙いをこう語る。

「これまではバレーボールは1日2試合が、同じ会場で行われていました。そうすると、そこに参加するチームや、バレーボールに興味がある人は足を運んでくれますが、そもそもバレーボールにはあまり興味がない、という人を呼ぶのは難しい。ならば同じ地元の他競技とコラボしようと。われわれにとっては、バスケットボールの取り組みから学ぶことは多いし、バスケットの関係者にとっては女子バレーというコンテンツは魅力だと言ってもらえる。

 1日1試合だからバレーボールのお客さんが入らない、で終わってしまうのではなく、バスケとバレー、お互いの良さをシェアすることで、また新しいアイディアも生まれます。実際に会場へ足を運んで下さるお客さまはもちろんですが、地元のテレビ局にも協力を仰ぎ、中継してもらうことでマッチスポンサーも獲得できる。それは地方ならではの強みになると思うし、他のチーム、競技も『うちはもっとこんなことができるんじゃないか』と発展していくのが、一番の理想だと思っています」

代表戦は地上波で生中継されるけれど……

実際に会場に足を運ぶファンを増やすためには、努力し続けなければならない 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 これまでのスタイルに慣れたバレーファンにとっては、1つの会場で1日1試合しかなかったり、応援の形が変わることに違和感があるというのも無理はない。だが、予算や方法が提示されることなく、「チームでやってみて」とある意味、丸投げに近い形で運営を任された中、どうすればたくさんの観客を呼ぶことができるか。そして楽しんでもらえるか。それぞれの知恵を絞り合い、何かを変えるために選手も含めて、各チームやクラブの関係者が一歩を踏み出したのは紛れもない事実だ。

 しかし残念なことに、会場に目を向けると、時に目をそむけたくなるぐらい空席が目立つこともあった。リーグが運営を担ったファイナル6、ファイナル8は特にそれが顕著で、中でもファイナルラウンド開幕戦となった福岡での女子ファイナル8は、アクセスの不便さや、開催前の告知不足もあり、昨年できたばかりの体育館がガラガラ。試合後のコートで行われる勝利チームインタビューでは多くの選手が、勝利の喜び以上に「再来週も福岡で開催されるので、ぜひ見に来てください」と声を張り上げた。

 バレーボールはルールも分かりやすく明確で、代表戦は地上波のゴールデンで生中継される恵まれた環境に置かれたスポーツだ。だが、それでも何もしなければ人が来てくれるような時代はとっくに過ぎており、努力しなければ、バレーボールに興味を持ち、実際に会場に足を運ぼうとする人は減少の一途をたどるばかりだ。

 リーグのフィナーレを飾ったグランドファイナル。会場となった武蔵の森総合スポーツプラザの最寄り駅である飛田給は、同日、隣の味の素スタジアムで開催されるFC東京と鹿島アントラーズの試合に足を運ぶ、ユニホームを着たサポーターで溢れていた。

 サッカーはすごい、バスケットボールはすごい、と見上げるばかりでは何も変わらない。このままで何とかなる、ではなくいかに人を呼び、バレーボールという競技の魅力を発信できるか。新生Vリーグがスタートして1年目、各チームが模索しながら取り組んできたさまざまなチャレンジを無駄にしないためにも、何ができるか。そして、何をすべきなのか。

 各チームだけでなく、Vリーグ機構にも大きな課題が突きつけられている。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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