クラブ経営はJリーグに学べ! Bリーグがライセンス制度を徹底する理由

大島和人

昇格候補2クラブがB1へ上がれず

B1とB2を戦う全36クラブの来シーズンのクラブライセンスが出そろった 【(C)B.LEAGUE】

 4月9日にBリーグクラブライセンス(2019−20シーズン)の第2回判定が発表され、今シーズンのB1とB2を戦う全36クラブの結果が出そろった。今回はサッカー(Jリーグ)、バスケットボール(Bリーグ)で運用されている「クラブライセンス制度」について、両リーグで同制度の整備を行った大河正明Bリーグチェアマンの取材を行った。両競技の例を取りあげながら、可能な限り分かりやすく説明する。

 3月12日の第1回判定で、既に2018−19シーズンのB2中地区王者・信州ブレイブウォリアーズのB2ライセンスが確定していた。東地区の首位を快走する群馬クレインサンダーズも、今回の発表でB2ライセンスが確定。B2からB1への昇格は最大3クラブだがB2の「トップ4」に入りそうな2クラブが昇格の権利を持っていない。

 加えて今回の発表ではB1ライジングゼファー福岡が「停止条件付のB2ライセンス」となった。カテゴリーが下がった上に、条件を満たさなければB2ライセンスも停止されるという内容だ。B2金沢武士団もB3ライセンスへの降格という厳しい判定が下されている。

 福岡、金沢はいずれも「財務基準」を満たせず、格下げが行われた。福岡は現在、資金繰りの問題が生じている。金沢は3期連続赤字を脱却できず、さらに現時点で3億円以上の累積損失がある。

 3期連続赤字に並ぶ財務の高いハードルが債務超過だ。B2は2020年6月期までの猶予期間が認められていた。ただし信州は18年6月期の段階で債務超過を解消できず、B1ライセンスの交付を受けられなかった。

 大河はかつてライセンス制度の主旨についてこう述べていた。

「安定した成長への寄与がポイントです。なぜ赤字や債務超過がダメかと質問が来るけれど、赤字の垂れ流しや債務超過は公共の施設を使わせてもらっているクラブとしていかがかと思います。また赤字が続くとキャッシュフローが痛み、試合の開催が危ぶまれるリスクも抱えることになります」

クラブの取り締まりや排除が目的ではない

 Bリーグが重視するのは「ファイナンシャルフェアプレー」だ。サッカー、バスケでは売り上げの3〜4割が人件費の目安とされている。選手の年俸額を大幅に増やせば目先の結果は出るが、中長期的に経営を悪化させる要因となりかねない。B1のビッグクラブは大よそ実力に見合った収入を得ているが、B2の上位には身の丈以上の補強をして結果を出したクラブがあった。

 一方でクラブの取り締まりや排除が制度の目的ではない。運用の方向性について、大河はこう説明する。

「僕が担当者に言っているのは『どうやったら通るか(クラブ)に寄り添え』ということです。ダメなものはダメなんだけれど、通らないクラブが出たら担当者として力足らずだったというような気持ちでやってもらっています」

 信州が18年6月以降のアクションで、B1ライセンスを認めさせる方法はなかったのか? 当然「仮定」ではあるが、大河はこのような見解を示す。

「18年6月期の決算は、9月に分かります。本当にB1へ行きたかったのであれば、10月くらいには増資をして、11月末のライセンス申請の手前には債務超過を埋めた状態にするべきでした。条文だけを見れば、18年6月に解消していないとアウトです。アウトなんだけれど、A等級基準の部分をJリーグより柔らかめに作ってある。軽微な違反で、短期的な回復が認められる場合は、一時的に基準をクリアしていなくても、柔軟に対応する考えでやっています」

 バスケ界のクラブライセンス制度は、サッカー界をお手本にした部分が大きい。大河は銀行員から10年にJリーグへ転じ、理事としてクラブライセンス制度の導入や運用に関わっていた。Jリーグは12年9月に13年シーズンに向けた第1回の判定を行っている。それ以前は「Jリーグ入会審査」の段階で経営体制、施設のチェックが行われていた。

Jリーグでも相次いだ「クラブ存続問題」

J2リーグを戦う町田ゼルビアもライセンス制度に苦しみながらもステップアップを続ける 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 FC町田ゼルビアは下部リーグで好成績を収めていたものの10年の審査を通過できず、11年に再チャレンジして12年にJリーグへ入会した。また18年にはJ2の4位に入ったものの、天然芝の練習場などが必要となるJ1ライセンスを付与されておらず、昇格プレーオフに参加できなかった。Jリーグでは他にもAC長野パルセイロ、ギラヴァンツ北九州、ブラウブリッツ秋田など成績面では昇格を狙える状況ながら、「施設基準」で上位カテゴリーのライセンスを交付されなかった事例があった。

 10年の町田と19年の信州には、競技や項目が違っても重なる部分がある。それはクラブ側がライセンスの運用を楽観的に解釈し、リーグの出方を見誤ったことだ。町田は翌年にクラブの担当者が入れ替わり、市も含めてJリーグと密にやり取りを行い、Jリーグ入会の資格を勝ち取った。12年のシーズン中にはメーンスタンドの整備を行い、5階建ての「仮設棟」で運営施設を確保する投資も行われた。

 大河は当時をこう振り返る。

「町田の事例を契機に『まあ、そうは言わずによろしく』という世界ではないと認知された。良くも悪くも強制力が働くものになった」

 ライセンスの条項を満たしていないクラブが、知事や市長の「一声」でリーグを動かそうとするケースは現実にあり得る。しかしJリーグはクリアするべき基準をはっきり設定し、可能な限り透明なプロセスで決着する運用を採っている。

 Jリーグのライセンス制度が導入されたきっかけは09年に大分トリニータ、10年に東京ヴェルディと相次いで起こったクラブの存続問題だった。特に当時の大分は財務が「どんぶり勘定」の状態になっていて、資金繰りが危うくなった時点でマイナス12億円の大幅な債務超過状態だった。

 Jリーグではそれ以前にも1997年に起こった横浜マリノスと横浜フリューゲルスの合併や、経営不振に陥ったクラブを「リセット」して、新法人を立ち上げたような事例がある。クラブライセンス導入時は債務超過状態のバランスシート(貸借対照表)が当たり前だった。

 仮に債務超過状態でも、親会社による貸し出しなどで資金繰りが安定しているケースはある。しかしJリーグは市民クラブと企業チームで差をつけず、資産超過を求める判断をした。大切なのはライセンス制度と同時に「クラブが自らの経営状態を把握し、コントロールする」という経営の大原則がJリーグに持ち込まれたことだ。加えて仮にクラブの経営が行き詰まるとしても、予兆を察知し、リーグ全体がすぐ対応できるようになった。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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