デア・クラシカーを控えた両者の諸事情 ブンデスリーガ優勝を占う大一番

中野吉之伴

優勝を懸けたバイエルンvs.ドルトムント

バイエルンに勝ち点2差をつけたドルトムント。バイエルンの7連覇を阻むことができるか 【写真:ロイター/アフロ】

 ここまでスリリングなブンデスリーガの優勝争いはいつ以来だろうか? バイエルン・ミュンヘンの独走優勝が続いていたこの数年間、ドイツ人サッカーファンは「つまらなくなんかはないよ。自分のチームの成績がいつでも一番気になるところだし、見どころはたくさんあるからね」と話しながらも、どこかでこんなシーズンを待ちわびていたはずだ。その証拠に、今季はスタジアムに向かうトラムやバスの中でバイエルンとボルシア・ドルトムントの話が聞こえてくることが多い。どっちが上か、どちらが先に崩れるか。自分たちがサポートするチームの話題と織り交ぜながら、楽しそうに話す姿をよく目にしている。

 27節終了時でリーグ6連覇中のバイエルンが2位、勝ち点2差をつけてドルトムントが首位。残り7試合でタイトルの行方が決まるこの大事な時期に、そんな両者が直接対決する。ドイツのサッカーファンのみならず、世界中のサッカーファンが優勝を懸けた大一番を楽しみにしている。

 現場の力の入れようもすごい。この試合のために設置されるテレビカメラは25台。これは過去最多の数だという。また通常映像に加え、空からの映像のためにドローンも導入。さらにゴール後ろには初めてリモコン操作の小型スローモーションカメラが取り付けられ、スペクタクルなゴールシーンを狙う。テレビクルーは総勢260人。205カ国で放送され、16のインターナショナルTVがアリアンツ・アレーナから実況中継を行う。

 直近の戦績ではバイエルンに分がある。ここ10試合のリーグとカップ戦の直接対決でバイエルンが5勝、ドルトムントは3勝だ。だがそれはあくまでも数字上のことでしかない。この試合にどのような準備で臨むのか。そして残りの試合をどのように乗り切るのか。それが大事だ。ドルトムントのルシアン・ファブレ監督が「われわれはパーフェクトな試合をしなければならない」と語り、バイエルンのニコ・コバチ監督は「ミスが少ないチームが優勝する」と気持ちを引き締めていた。

失点癖のある今季のバイエルン

コバチ監督も守備に問題があることは認識している 【写真:ロイター/アフロ】

 まずホームのバイエルンを見てみよう。正直、順調とは言えないシーズンを送っている。特に好不調の波が大きすぎるのが何より悩ましい。4月3日(水)にはDFB杯準々決勝で2部リーグのハイデンハイムと対戦。主力を温存し、悠々と準決勝進出を決めるつもりだった。ところが先制ゴールを奪ったものの、15分にニコラス・ズーレが相手FWをペナルティーエリア付近で倒して一発レッド。ビルドアップ時にチアゴ・アルカンタラの不用意なパスを相手に奪われたのが起点となってしまった。問題はこの後の展開だ。数的不利となりセンターバック(CB)が1人少ない状態にもかかわらず、コバチ監督が動いたのはその9分後。フランク・リベリーを下げてCBジェローム・ボアテングを起用する。そこまではいい。だがこの交代劇がチームに安定感を何ももたらさないのだ。プレーの整理がまったくされない。守備陣の立ち位置はバラバラで、ハイデンハイムのカウンターからあまりに簡単にピンチを迎えてしまう。後半からは温存するはずだったロベルト・レバンドフスキやキンスリー・コマンも投入し、何とか勝利したものの5−4というのは褒められる結果ではない。

 問題点はコバチだって分かっている。「公式戦40試合で43失点もしている。戦術的なミスが原因で、個人的なミスが要因だ」と指摘する。だが戦術的なミスも個人的なミスもなぜ今季増えているのかを見定められてない。例えばマッツ・フンメルスが「中盤センターでのボールロストは気をつけなければならないところだ」とハイデンハイム戦後に語っていたが、それはサッカーをしたことがある人ならだれでも知っていることだ。バイエルンの選手がそのことを分かっていないはずがない。それがミスとして起きてしまう。ゲームをコントロールする。そのために必要な適材適所への人員配置、人心掌握ができているだろうか。

 バイエルン会長ウリ・ヘーネスは「土曜日の18時30分(現地の試合開始時間)。そこでは一つの言い訳も許されない。ドルトムント相手にパフォーマンスを発揮されなければならない。勝たなければならない試合だ。それ以外の選択肢などない。われわれはドルトムントに勝つことで、優勝への意欲を示さなければならないのだ」と言い切った。最近は現場のことに口を出さなくなっていたヘーネスからの厳命。その中で勝ってこそバイエルンであり、勝つからこそバイエルンの指導者として認められる存在となる。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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