FC今治がJ3昇格を逃した要因 岡田会長が昨シーズンに痛感したこと
工藤コーチの内部昇格を決めた背景
岡田会長は悩んだ末、内部を把握している工藤氏を監督に据えた 【宇都宮徹壱】
実はものすごく悩みましたね。このピンチの時に、外から監督を連れてくるのは絶対に良くない。チーム事情も選手のことも把握していて、勝てなかった理由についても理解している人間が監督になるべきだと。他にも候補者はいたんですが、工藤は経験こそないけれど、このプレッシャーにも耐えられるだろうということで。本人は最初「ちょっと考えさせてください」と言ったんですが、すぐに引き受けてくれました。
――工藤監督に対して、岡田さんとして特に強調したことは何だったのでしょうか?
強調したことは特にないですね。ただ「非常に厳しい状況だけれど、1試合1試合を勝つために何がベストかを自分なりに考えて、自分を信じてやっていけ」ということは伝えました。それと「何か相談があるなら、いつでも相談に乗る」とも言いましたね。
――この新体制については、工藤さんと岡田さんの間で進めていたとのでしょうか?
もちろん、木村(孝洋=フットボール事業本部長)、高司(裕也=オプティマイゼーション事業本部長)には相談しましたけれど、最後は「工藤でいくぞ」ということで。
――工藤監督になってから、しばらく勝ったり負けたりの状況が続いていましたが、セカンドステージ第8節のソニー仙台FC戦から第13節の東京武蔵野シティFC戦まで、怒とうの6連勝。この要因は何だったと思いますか?
選手たちが死に物狂いで戦うようになったこと。一番はそこでしょうね。それまでは勝つにしても負けるにしても、全力で戦う“熱さ”があまり伝わってこなかった。それがある時から、チームがひとつになって死に物狂いで戦えるようになりましたね。監督が交代したことで選手が危機感を共有して、工藤がひとつの方向性に持っていくことができての、あの結果だったと思っています。
――この6連勝に関して、岡田さんから現場に対して働きかけたことはあったのでしょうか?
なぜ吉武を切ったのかについては、選手たちにきちんと説明しました。それ以外は口出ししていませんね。それと工藤から電話がかかってきたときには、相談に乗っていました。でも頻繁ではないですよ。最初の頃だけでしたね。
昇格に一番足りなかったもの
最終節のあと、岡田会長があいさつするとスタンドは拍手で包まれた 【宇都宮徹壱】
びわこに負けた時点で、僕はもうダメだと思いましたね。あのまま勝ち続けたら必ず(昇格の)可能性があると思っていましたが、逆に負けたら終わりだと。その後、裏の試合(ソニー仙台対FCマルヤス岡崎)の途中経過を見たら、前半だけでソニーが3−0でリードしていたから「やっぱりダメか」と。
──目前のホンダロック戦も1−1で終わり、J3昇格の夢をまたしても絶たれました。しかし試合後はブーイングも起こらず、むしろ「よく頑張った」という拍手でスタンドは包まれました。この状況は想定していましたか?
まったく想定していなかったですね。試合後のあいさつは(工藤)監督か(矢野将文)社長という話だったんだけれど、そこは慣れている僕が謝罪のあいさつをすることにしたんです。そしたらボロカスに言われることなく、むしろ拍手が起こった。それはやはり、ただズルズル負けたのではなく、6連勝して最後まで可能性を残したことが大きかったと思いますね。もちろん、だからこそ今年は昨年以上に結果が求められるわけですが。
――あらためて、昇格するために何が一番足りなかったと思いますか?
周りから見たら「(クラブ予算が)7億円規模のチーム」でも、実際の戦力はそんなに他と比べて抜きん出ているわけではなかった。僕自身、「JFLはJFLなりのメンバーで勝ち抜くべきだろう」という考えがちょっとあったんです。僕がこのクラブでやっていることは、確かに評価はされているんだけれど、最後はやっぱりトップチームの成績なんですよね。ある程度は、選手にお金をかけなければならない。そのことを痛感しましたね。
<後編に続く>