地味な中堅だった飯塚高史が、“狂乱引退”を果たすまで

高木裕美

10カウントを聞いたアイアンフィンガー

引退試合でも噛み付き攻撃が冴えわたる 【写真:SHUHEI YOKOTA】

 結局、引退試合は飯塚&鈴木みのる&タイチ組vs.オカダ・カズチカ&天山広吉&矢野通組というカードに決定。飯塚はいつものように客席になだれ込むと、観客の期待通りに実況席の野上アナを襲撃。着ていた最高級ワイシャツも、青義軍Tシャツも破り捨てた。

3カウントを奪った惜別のムーンサルトプレス 【写真:SHUHEI YOKOTA】

 この日も友情タッグTシャツを着てきた天山の「最後のお願い」を、飯塚は無言のストンピングで一蹴。天山の魂のモンゴリアンチョップを受け止めると、リング下から持ち出したイスで殴打し、左手に噛み付き攻撃。さらにオカダの足にも噛み付くと、かつてサンボで習得したビクトル式ヒザ十字固めを仕掛ける。天山に魔性のスリーパーが決まれば、客席からは「落とせ」コールの大合唱。20分過ぎ、飯塚がついにアイアンフィンガーを手にするも、矢野の金的攻撃からオカダのツームストン、天山のダイビングヘッドバットの連携がズバリ。だが、天山はカバーには入らず。飯塚の胸の上に友情Tシャツを載せてから、惜別のムーンサルトプレスで3カウントを奪った。

Tシャツをかざす天山、悶絶する飯塚 【写真:SHUHEI YOKOTA】

 試合後、飯塚は天山を突き飛ばし、観客の大「飯塚」コールに頭を抱えて悶絶。Tシャツをかざす天山と、ついに握手をかわすが、その直後に頭に噛み付き、イスで殴打。鈴木軍総出のアシストを受け、アイアンフィンガーフロムヘルをお見舞いした。最後までヒール道を貫き通した飯塚は、タイチの「本当に引退するのか、お前の口からハッキリ言え」という呼びかけにも応じず、客席を暴れ回ってそのまま退場。みのるがリング中央にアイアンフィンガーを置き、10カウントゴングを打ち鳴らした。飯塚は、結局、最後まで自分から引退の挨拶もせず、改心もせず、リング上で10カウントゴングも聞かず、ゆかりのある仲間からのエールも受けずに、「狂乱坊主」のまま、リングを去った。

 しかし、観客はなおも「飯塚」コールを止めず、かつて共にIWGPタッグ王座を巻いた放送席の山崎一夫さんも一緒になって叫ぶ。たとえば、これが演劇や舞台であるなら、「飯塚孝之さん」に戻って、笑顔で“カーテンコール”に応えたのかもしれない。

【写真:SHUHEI YOKOTA】

 だが、聖地を埋め尽くす、男性率多めの大「飯塚」コールをもってしても、ひどい目に遭い続けた野上アナが号泣しても、もう一度、飯塚をリングに呼び戻すことはできなかった。稀代のヒールレスラーは、最後まで型破りだった。

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著者プロフィール

静岡県沼津市出身。埼玉大学教養学部卒業後、新聞社に勤務し、プロレス&格闘技を担当。退社後、フリーライターとなる。スポーツナビではメジャーからインディー、デスマッチからお笑いまで幅広くプロレス団体を取材し、 年間で約100大会を観戦している 。最も深く影響を受けたのは、 1990年代の全日本プロレスの四天王プロレス。

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