“孤立無援”のカタールとUAEへの失望 日々是亜洲杯2019(1月29日)

宇都宮徹壱

完全アウェーの中で戦うカタール

試合会場に続々と集まるUAEのサポーター。カタールのサポーターの姿は見えない 【宇都宮徹壱】

 アジアカップ25日目。日本の決勝進出の余韻がさめやらぬ中、この日はもうひとつのセミファイナル、カタール対UAEが18時(現地時間)からアブダビで開催される。言うまでもなく、この試合の勝者が、2月1日の決勝で日本と対戦することとなる。アルベルト・ザッケローニ率いるUAEについては、日本代表と同じ開催都市で試合をすることが多かったので、これまで4試合を取材してきた。ゆえに、私なりにスカウティングはできているのだが、カタールについてはまったくの未見。よって今回は、カタールの戦いぶりをしっかり見ておこうと思い、2時間半かけてアルアインからアブダビに移動した。

 カタールは2022年ワールドカップ(W杯)の開催国だ。しかし、これまでアジアのフットボールにインパクトを残したことは、ほとんどなかったと言ってよい。アジアカップに関しては、1976年大会に初エントリーして、初出場が80年大会。今大会が10回目の出場だが(96年大会は予選敗退)、自国開催となった11年大会のベスト8がこれまでの最高成績である。今大会もグループの1番手はサウジアラビアで、カタールのおおかたの評価は「良くて2番手」。ところがそのサウジを2−0で破ると、ノックアウトステージでもイラクと韓国にそれぞれ1−0で勝利し、史上初となるベスト4に上り詰めた。

 カタールが自国開催のW杯を成功させるために、国家規模で選手育成に力を入れてきていることは、これまでにもたびたび報じられてきた。これまで本大会への出場経験がないまま、W杯を開催することとなったカタール。だがここに来て、選手育成の成果が表れつつあるようだ。一方で気になるのが、カタールが現在、UAEやサウジなど7カ国と断交状態にあること。現地で聞くところでは、カタールからUAEへの入国は原則禁止されており、カタール代表は孤立無援の状態で今大会を戦っているという。試合会場のムハンマド・ビンザイード・スタジアムを訪れてみると、確かにカタールのサポーターの姿は皆無であった。

 試合前の国歌斉唱。カタール国歌が流れると、会場はすさまじいブーイングに包まれた。これまでUAEの試合で、対戦相手の国歌にこれほどのブーイングが浴びせられることはない。アジアカップでのブーイングといえば、思い出すのが04年の中国大会。日本の君が代に対して、地元ファンから大ブーイングを受けたものだ。しかしカタールの選手たちからは、完全アウェー状態にも動じる様子は感じられない。試合が始まると、正確かつテンポの良いパス回しから、次第にカタールがゲームの主導権を握っていく。そして前半15分の段階で、早くもポゼッションは60パーセントを超えていった。

敗戦で決定的となった開催国への失望

終わってみれば0−4の完敗。開催国の予想外の敗退に大会スタッフもこの表情 【宇都宮徹壱】

 カタールが先制したのは前半22分、自陣でアクラム・アフィフが相手ボールを奪うと、すかさず前線に縦パス。これを受けたのは、センターバックのブアレム・フーヒだった。「いつの間に?」と思った瞬間には自らドリブルで持ち上がり、ペナルティーエリア前から意表を突くシュートでネットを揺らす。さらに37分には、左サイドでの素早いパス交換からアルモエズ・アリが抜け出し、3人に囲まれながらも右足を振り抜いて追加点。これでアリは今大会8ゴールとなり、96年大会にアリ・ダエイ(イラン)が記録した最多ゴール数に並んだ。スタジアムが静まり返る中、前半はカタールの2点リードで終了する。

 後半、UAEは35歳のベテラン、イスマイル・マタルを投入。さらに、矢継ぎ早に攻撃陣を入れ替えたことが奏効し、ゲームの主導権を握るようになる。後半7分にはアリ・マブフート、24分にはマタル、そして27分には途中出場のアフメド・ハリルが際どいシュートを放つも、いずれもGKサード・アルシーブの好セーブと、ディフェンス陣のブロックに阻まれて得点ならず。今大会無失点を誇る、カタールの守備力は際立っていた。そうこうするうちに後半35分、カタール陣内からのロングパスが前線に流れると、まごつくUAE守備陣を尻目にハサン・アルハイドスが抜け出して3点目を挙げる。

 その後のUAEについては、選手のプレーのみならず、サポーターの振る舞いについても、ただただ失望を覚えるばかりであった。アディショナルタイムに入ると、VARでイスマイル・アフメドの肘打ちが判明して一発退場。その1分後には、代わって入ったばかりのハミド・イスマイルに屈辱的な4点目を決められてしまう。スタンドに残っていた地元ファンからは、持ち込みが禁止されているはずのペットボトルが次々とピッチ内に投げ込まれる。応援しているチームが負けている時にこそ、サポーターの本質が顕(あらわ)になるものだが、その意味でUAEにはフットボール文化が根付いていないことを痛感させられた。

 かくして4−0の圧倒的なスコアで、カタールが決勝に進出。敗れたUAEのザッケローニ監督は、「国民の皆さんに謝罪したい」と会見で語っていたが、このチームをよくぞベスト4まで導いたものだと思う。決勝の相手が、元日本代表監督率いる開催国というのは、確かにストーリーとしては魅力的である。それでも実力で勝るカタールのほうが、よりファイナルの相手としてふさわしいことは間違いない。リカバリーが1日多い上に、決勝当日の会場の雰囲気も「反カタール」でまとまることは必至。日本にとって有利な条件はそろうが、だからこそ気を引き締めてカタールとの決勝に臨むべきであろう。
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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