40歳パッキャオ完勝で鳴らされた“世紀の再戦”メイウェザー戦へのゴング
1月19日(現地時間)、マニー・パッキャオ(フィリピン)が試合後に残したそんな言葉を合図に、“世紀の再戦”のカウントダウンが始まろうとしているのだろうか。実際には主役の2人はすでに40歳を超え、“世紀の――”などと銘打つのはもう躊躇(ためら)われるカードではある。それでも世界中の多くのスポーツファンの興味を引くであろうリマッチ。その実現へのシナリオは、再び静かに動き出したように思えてくるのだ。
この日、ラスベガスのMGMグランド・ガーデン・アリーナで行われたWBA世界ウェルター級タイトル戦で、王者パッキャオは挑戦者エイドリアン・ブローナー(米国)に3−0(117−111、116−112、116−112)の判定勝ち。プロキャリア70戦目(通算61勝39KO 7敗2分)を明白な勝利で飾るとともに、昨夏に獲得した同タイトルの初防衛に成功した。
リングを支配した老雄と現実
不惑を迎えたパッキャオ。ハイレベルなボクシングで防衛戦を完勝してみせた 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】
パッキャオ本人のそんな言葉通り、昨年12月17日に不惑を迎えたフィリピンの英雄はこの日もフルラウンドを通じてブローナーを圧倒し続けた。序盤から積極的に仕掛け、鋭い踏み込みからコンビネーションをヒット。“問題児(ザ・プロブレム)”の愛称を持つブローナーは年齢的にはひとまわり若い29歳だが、それでも1万3025人(ソールドアウト)の観衆の前で試合を支配したのは老雄パッキャオの方だった。
7回にはロープ際でブローナーにダメージを与え、貝のようになる相手に高速コンビネーションを繰り返しヒット。さらに9回にも左ストレートを顎に打ち込んでタフな挑戦者を弾き飛ばすなど、随所に印象的な見せ場を演出し続けた。
もちろんブローナー相手の勝利は大方の関係者の予想通りであり、特筆すべきではないという見方ももっともではある。これまでスーパーフェザー、ライト、スーパーライト、ウェルター級という4階級を一応は制したブローナーだが、エリート級への勝利は皆無。マルコス・マイダナ(アルゼンチン)、ショーン・ポーター(米国)、マイキー・ガルシア(米国)といった一流どころにはことごとく敗れており、いわゆる“スーパースター”とはみなされてはいない。特にウェルター級では相手にプレッシャーをかけられると手数が出なくなり、その傾向は今夜も同じだった。
このブローナーから何度かクリーンヒットを打ち込みながら、パッキャオも深刻なダメージを与えることはかなわなかった。全8階級にわたって活躍してきた怪物ボクサーも、スピード、パワーは全盛期と比べてやはり確実に落ちているのだろう。
全盛期の姿ではないにしろ、オールラウンダーとしての円熟味は増すばかり 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】
「もっとアグレッシブに攻めたかったけど、トレーナーにはケアレスになるなと止められた。機会を待って、カウンターを決める。僕はそれをやり遂げたんだ」
試合後のリング上でのそんな言葉通り、この日のパッキャオは試合を作る積極性は保ちつつ、危険なカウンターパンチを持つブローナーを相手に適度に自重した。
かつてはデストロイヤーとして知られたパッキャオだが、今は総合力に秀でたオールラウンダー。この変化はもともとは衰えに起因するものではあるが、一方で加齢とともに必要なアジャストメントを施してきたと捉えることもできる。カウンターを避けながら相手のボディにスムーズに左ストレートを伸ばし、ディフェンスにも気を配る姿は円熟のうまさを感じさせた。