初戦で浮き彫りになった“大迫依存” 優勝には「7試合勝ち抜く采配」が不可欠

宇都宮徹壱

勝ち点3を手にするも、課題も残した

辛くも初戦に勝利した日本代表だが、多くの課題も残した 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 前半の日本は、試合の入りが悪かったことに加えて、原口が言うところの「やりたいサッカーに固執しすぎた」ことも災いして、森保体制がスタートして最悪の45分を終えることとなった。この状況に際して森保一監督は、ロッカールームに戻ってきた選手たちに「切り替えの部分だったり、球際のバトルのところだったり、予測するところなど」ベースの部分を確認した上で「背後への動き出しをもう少し入れていこう」と伝えたという。ただし、ハーフタイムでの選手交代はなし。あくまでも同じメンバー、同じシステムでこの苦境を打開することを選択する。

 エンドが替わった後半、目覚ましい働きを見せたのが原口だった。後半11分、左サイドからドリブルで持ち込んで、突き刺すようなパスを中央に供給。受けた大迫はトラップから巧みな足さばきでシュートコースを作り、ゴール右隅に決めて同点とする。さらに15分には、吉田からのロングフィードを原口がヘッドでゴール前に落とし、走り込んできた長友が相手DFと入れ替わるように浮き玉で折り返す。最後は大迫が飛び込んで2点目を挙げ、ついに日本が逆転に成功した。

 その後も日本は、暑さと疲れで集中力が途切れがちになっていたトルクメニスタンに対し、積極的な攻撃を仕掛けていく。後半26分には、柴崎から供給された縦パスがいったんは相手にブロックされるも、セカンドボールを拾った大迫から南野、さらにペナルティーエリア内の堂安へとパスがつながる。最後は堂安が見事なターンを披露して、左足でダメ押しの3点目。これで安全圏に入ったと見たのか、森保監督は最初の交代としてFW北川航也をスタンバイさせる。てっきり、コンディションが万全ではない大迫がお役御免になると思ったが、下がったのは南野。結局これが、この試合での日本の唯一の交代となった。

 後半33分、日本は北川がMFアフメト・アタエフにボールを奪われてカウンターを受ける。これに途中出場のFWアルティミラト・アンナドゥルディエフが反応、手薄になっていたディフェスラインを突破されてGKとの1対1の状況を作られる。権田はたまらず相手を倒し、PKを献上(権田にはイエローカード)。これをアタエフにきっちり決められ、点差は1点に縮まる。与えなくてもいい失点を与えた日本は、再び点差を広げようと必死で攻め続けるもスコアは動かず。3−2で勝ち点3を手にしたが、少なからずの課題を残す初戦となった。

「初戦特有の難しさ」で片付けてはいけない

優勝には森保監督の「7試合勝つことを見据えた采配」が不可欠だ 【写真:松尾/アフロスポーツ】

「大会の初戦は難しくなると思っていました『予想(通り)』と言っていいかわからないですが、初戦特有の難しい試合になったと思います。まずは勝ったことが今日の試合で良かったことだと思います」(試合後の森保監督の会見より)

 確かに「初戦特有の難しい試合」だったし、この試合の成果を「まずは勝ったこと」というのも、その通りだと思う。とはいえ、トルクメニスタン相手に苦戦した理由を「初戦だから」だけで片付けていいのだろうか。対戦相手の情報が少なかったこと、気温の高さに順応できていなかったこと、ボランチが十全に機能しなかったこと(本調子でない柴崎と不慣れな冨安の組み合わせなら当然か)、そしてディフェンスラインが安定しなかったこと。これだけ負の要因が重なった中で、それでも勝ち切ることができたのだから、その点についてはむしろ評価していいと思う。

 いずれにせよ、何とか日本は難しい初戦をクリアすることはできた。今後の対戦相手については十分にスカウティングができているだろうし、滞在期間が長くなれば現地の気候にもアジャストできるだろうし、試合を重ねながらボランチやディフェンスラインの改善も可能となるだろう。この試合で露出した課題の多くは、十分に修正可能であると考える。むしろ私が懸念しているのは、特定の選手への依存と森保監督のベンチワークにあった。試合後の会見で「なぜ大迫を最後まで引っ張ったのか」と質問した時、指揮官はこう答えている。

「まず代えないといけない理由はないと思いますし、コンディションの部分で別メニューの調整をしていて、もう少し展開に余裕があれば代えていたと思います」

 コメントを読み返せば「代えないといけない理由はない」と「もう少し展開に余裕があれば代えていた」という2つの言葉は明らかに矛盾していることに気づくはずだ。昨年の親善試合5試合では、積極的に選手を入れ替えていた森保監督だが、交代枠が3人の公式戦となるとカードの切り方がとたんに慎重になる。もちろん「初戦だから」ということもあるだろう。だが、大迫のような代えの利かない存在に、知らず知らずのうちに依存してしまっていたのであれば、問題は根深いと言わざるを得ない。

 確かに大迫は、今の日本にとって不可欠な得点源だ。しかしながら、決して万全な状態ではない彼をグループステージで酷使することは、厳に慎むべきであろう。日本が本気でアジアカップのタイトル奪還を目指すのであれば、7試合に勝つことを前提とした采配が不可欠。次のオマーン戦では、指揮官の采配に変化が見られることを切に期待したい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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