監督・主演メイウェザー 日本中が踊らされた巧みな自己演出

長谷川亮

「当たり前」を打ち消した演出

前日計量でも余裕の無敗王者 【写真:Shutterstock/アフロ】

 はたして本当に来るのか、直前でまたキャンセルを言い出すのでは……そんな懸念が最後まで晴れなかったメイウェザーだが、大会2日前となる12月29日に来日。RIZINの恒例行事である大会前の個別インタビュー(29日)、前日の計量(30日)と“オレ流”を通す場面はあったが(※「早くしてくれ」と勝手に登場を前倒しした)、ようやく試合を迎える段取りとなる。

 しかし試合に関して発言する場面で、メイウェザーは「エンターテインメント」「エキシビションマッチ」といった言葉を多用。倒してやらん、“勝負”と意気込む那須川サイドを逆なでした。

 時差調整もお構いなしのわずか2日前の来日、ウォームアップもままならない開始直前の会場入りと、メイウェザーの態度は完全に“舐めている”それであったが、終わってみれば那須川を打ち気にさせる作戦の一環であったのか。

 遅れてきた身でありながら、メイウェザーは「確認していない」と一度巻いた那須川のバンテージの巻き直しを要求。入場からリングインした後も余裕の態度を崩さず、念入りに試合への“準備”を組み立てる。

 試合序盤、メイウェザーの右ストレートをかわして左ストレートを当て、素質の高さと当て勘のよさを見せた那須川だったが、そこから後はメイウェザーの独壇場。体格差を利して前へ出ると、那須川のパンチを誘い、そこへカウンターを合わせて3度のダウンを立て続けに奪ってTKO。強さをまざまざと見せつけた。

ダウンする那須川と笑みを浮かべるメイウェザー 【(c)2015 RIZIN FF】

 だが、メイウェザーが50戦無敗を築いたボクシングに限りなく近いルールで、さらに望んだ体重に合わせて試合を行ったのだから、この強さはある意味で当たり前。しかし試合前の巧妙な振る舞いによりヒール役を担うことで、メイウェザーはその視点をはぐらかした。もちろん体重差やマッチメイクの無謀さを指摘する声はあったが、大きな広がりは見せなかった。

王者のすごみはリンク上にとどまらず

 かつて“石橋を叩いても渡らない”と言われたメイウェザーだが、その超一流のディフェンス技術・察知能力に加え、危機管理も徹底している。あえて危険を冒してボクシングの華であるKOを狙いにいくようなことはせず、勝ちに徹する。そもそも試合自体も負けない、勝てると踏んだ相手とマッチメイクしている節があり、その見立ては正確で、それもあってここまで無敗を守ってきた。

「ショー」や「エキシビション」といった言葉を連呼し遊びムードを演出したメイウェザーはスパーリングのような戦いを展開するのではと思われたが、試合では一気に倒しにかかり那須川を仕留めた。発表会見から試合までで醸成された、“遊び半分”といった偽りの空気にしてやられた思いがした。

試合後は予定されていなかった取材に応じた。これも演出の仕上げなのか 【写真:ロイター/アフロ】

 ボクシングも将来のひとつに見据える那須川の世界的プロモーションになればと思われた一戦であったが、終わってみれば際立ったのは陣営全体であたかも“劇場”というべき場を作り上げ、粛々と勝利へ進めそれを実現したメイウェザーのしたたかさ。そんな清濁併せ呑むすごみこそ、スポーツ界ナンバー1長者の座を可能とさせたのか。

 公式記録にこそ傷はつかないが、初のノックアウトを喫する形となってしまった那須川。しかしスパーリングですら困難であろうメイウェザーとの“勝負”を叶えたことは、何物にも代えられない財産になりえる。那須川自身も試合後、「フェイントの仕方だったりポジショニング、パンチの打ち方を真似というか盗もうと思ってます」とコメント。素質はもちろん、その吸収力こそ“神童”である那須川だけに、二十歳の今からどのように自分の実としていくのか注目したい。

 対戦相手だけでなく、ファンの気持ちと関心も巧みに操作したメイウェザー劇場。平成最後の年末に、50戦無敗を築いた何たるかを見せ、幕となった。

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著者プロフィール

1977年、東京都出身。「ゴング格闘技」編集部を経て2005年よりフリーのライターに。格闘技を中心に取材を行い、同年よりスポーツナビにも執筆を開始。そのほか映画関連やコラムの執筆、ドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(2017)『沖縄工芸パラダイス』(2019)の監督も。

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