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視線で「ノックアウト」した坂本花織
全日本女王を手繰り寄せた最後のパーツ

大会直前まで表現面をブラッシュアップ

 女王となった坂本花織(シスメックス)は、フリーの演技中、視線でジャッジを「ノックアウト」した。


「今までは、視線がジャッジさんより下になっていたんですけど、今日はもう『跳ぶから見てろよ』っていう感じで、むっちゃ見てました」


 いつものように元気な口調で報道陣を笑わせた坂本だが、大接戦となった第87回全日本フィギュアスケート選手権を制した要因の一つは、この「視線」にある。フォトグラファーによれば、演技構成点が高いスケーターは視線が上がっているため、いい写真が撮りやすいのだという。

初の全日本女王に輝いた坂本花織。滑り切った後、力強いガッツポーズを見せた
初の全日本女王に輝いた坂本花織。滑り切った後、力強いガッツポーズを見せた【写真:坂本清】

 昨季、坂本の新しい魅力を引き出すフリー『アメリ』を振り付けたブノワ・リショー氏は、今季は彼女の雄大なスケーティングが生きるプログラムを用意した。映画『ピアノ・レッスン』の曲を使った今季のフリーは、壮大なメロディーとよく伸びるスケーティングが溶け合い、フィギュアスケートならではの表現を見せてくれるプログラムだ。


 坂本はグランプリファイナルが行われたバンクーバーから帰国後、全日本選手権の直前まで、ブノワ氏とプログラムのブラッシュアップをしていたという。


「コンテンツシートを見たら、下の点数(演技構成点、表現面の評価を表す)が初めて70点を超えていて、ブラッシュアップした成果がちゃんと出たのかなって思って。そこが大きく伸びたので、点数も全体的に上がったのかな」


 最大の武器は、飛距離のある大きなジャンプだ。加点のつくジャンプを跳べる坂本にとり、今まで表現力は伸ばしていくべき部分だったといえる。ただ、もともと坂本にはフィギュアスケートでの表現力の大前提となる、スケーティングの技術が備わっていた。


 さらに平昌五輪にも出場する中で、少しずつ表現面での意識を高めていく。坂本を指導する中野園子コーチは、演技構成点が伸びた理由を問われ「心の入ったスケートが少しずつできるようになった。(この全日本選手権では)演じようとしていたと思います」と話している。

今回は視線を上げて演技することを意識。ジャッジに対して『跳ぶから見てろよ』と茶目っ気たっぷりに訴えかけた
今回は視線を上げて演技することを意識。ジャッジに対して『跳ぶから見てろよ』と茶目っ気たっぷりに訴えかけた【写真:坂本清】

 さらに全日本のフリーでの坂本は、ジャッジに視線を送る意識を強く持って演じた。表現が「観るものに何かを伝えようとすること」であるなら、ジャッジと目を合わせようとすることも表現だと言っていいだろう。


「今日はジャンプがそこまで良くなかったので、他でリカバリーするしかないと思って、下の点数を上げるのに必死でした」


 優勝を決めたフリー終了後のミックスゾーンで、坂本はそう振り返った。その表現を完成させるための最後のパーツは、「ノックアウト」する意識を持ってジャッジに送った視線だったのかもしれない。ジャンプにすぐれる坂本は、新たに彼女らしい爽快でダイレクトな表現の方法を手に入れることにより、全日本女王となったのだ。

 

沢田聡子

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(シンクロナイズドスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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