東京Vの快進撃を支える「見えざる力」J1参入POは磐田との“名門対決”に

宇都宮徹壱

「昇格」から「参入」へのレギュレーション変更

J1昇格POからJ1参入POへ。J1・16位への挑戦権を得るのは横浜FCか、それとも東京Vか。 【宇都宮徹壱】

「今年のJ2はこれまでと違って、2位と3位との意味がまったく違ってくる」──シーズン終盤の10月、松本山雅FCの反町康治監督はこのように語っている。今季の松本は見事にJ2優勝とJ1昇格を果たしているが、最終節の徳島ヴォルティス戦はスコアレスドロー。もしも松本が徳島に敗れ、大分トリニータとFC町田ゼルビアが勝利していたら、松本は3位になっていた。その場合、彼らを待ち受けていたのがJ1昇格プレーオフ(PO)改め、J1参入PO。「昇格」から「参入」への変更は、2位と3位とのコントラストをさらに強めることとなった。

 J2からJ1に昇格するためのPOは、この2018年シーズンから大きな変更が加えられている。これまでのレギュレーションは、3位対6位、4位対5位の準決勝が行われ、それぞれの勝者が決勝に進出。そこで勝利すれば(あるいは上位チームが引き分ければ)J1に昇格できるというものであった。ところが今季からは、これに加えてJ1・16位のチームとの「決定戦」、すなわち実質的な入れ替え戦が導入された。前年までのPOと比べると、J1への道のりがまるで異なるのである。

 なぜ従来のPO2試合から、PO2試合+J1・16位との入れ替え戦という、レギュレーションの変更が行われたのだろうか。主催者側からの明確な説明はないものの、PO制度が導入された12年以降の昇格チームを振り返れば、その答えはうっすらと見えてくる。12年が大分、13年が徳島、14年がモンテディオ山形、15年がアビスパ福岡、16年がセレッソ大阪、17年が名古屋グランパス。このうち、翌年にJ1残留を果たしたのは、C大阪と名古屋のみ。その名古屋も、他会場の結果次第ではPOに回る可能性を残していた。

「勝てば天国、負ければ地獄」の昇格POは、確かに当事者以外にもアピールできる、よくできたコンテンツである。しかしながら、せっかくPOを経て昇格したチームが、軒並み1シーズンでJ2に出戻る状況は看過できない──。そんな意見が、Jリーグの内部で議論されてもおかしくない(というか、むしろ議論されて然るべきである)。そこで出てきた妙案が、08年を最後に廃止されたJ1・16位とJ2・3位による入れ替え戦を、1発勝負にしてPOに組み込むというアイデアだったのではないか。少なくとも、そのように考えるのが自然であろう。

今年のPOが「キング・カズ」で語られる理由

「分かりやすいアイコン」横浜FCの三浦知良。この日はベンチから盛んにアドバイスを送っていた。 【宇都宮徹壱】

 かくして、装いも新たにスタートした今季のPO。4位でシーズンを終えた町田がJ1ライセンスを持たないため、1回戦を5位の大宮アルディージャと6位の東京ヴェルディが戦い、その勝者が3位の横浜FCと戦うという組み合わせになった。11月25日に大宮ホームで行われた1回戦では、1人退場となった東京Vが、後半26分のDF平智広による1点を守り抜いて勝利。実に11年ぶりとなるJ1復帰に向けて一歩前進した。しかし横浜FCとて、J1復帰が実現すれば、こちらは12年ぶり。決定戦進出に向けて、抜かり無く準備してくるのは間違いない。

 キックオフ1時間前、横浜FCのホームであるニッパツ三ツ沢球技場に到着する。師走の曇天の下、横浜FCのゴール裏はプレッシャーよりも、むしろ「この日を待ちかねた」というサポーターの熱気にあふれていた。6年ぶりのプレーオフ進出であることに加え、J2のレギュラーシーズン終了から2週間も待たされたこともあるだろう。前述した理由により、横浜FCは今大会の1回戦出場を免除されている。準備期間が増えた一方、2週間のブランクがどう作用するかは、試合が始まってみないと分からない。ちなみに東京VとはこれまでJ2で25試合を戦い、9勝10分け6敗と勝ち越している。

 やがてアップ開始時間となり、横浜FCの選手たちがゴール裏に一列に並んであいさつをする。フォトグラファーの一番のお目当ては、「キング・カズ」こと三浦知良51歳。とはいえカズはこの日、ベンチ入りしていたもののスタメンではない。よほどのことがない限り、出場することもないだろう。今季のJ2での出場は9試合でスタメンはゼロ(最も長く出場したのは第21節のレノファ山口戦で18分)。昨シーズンは12試合に出場してゴールも決めているカズだが、今季は2点差以上リードした残り数分での出場が続いている。

 にもかかわらず、今回のPOを報じるメディア(とりわけ地上波テレビ)のプレビューは、「カズが12年ぶりにJ1に戻ってくるかもしれない」といったものばかり。試合当日もカズの一挙手一投足をカメラは追い続けていた。確かに「画(え)になる」のは間違いないが、それ以上に「分かりやすいアイコンだから」という理由もあるのだろう。もっとも、この日のニッパツの観客数は今季最多の1万2625人。その全員が「カズ目当て」でないことは明らかである。POそのものの魅力は定着しつつあるのに、現場とメディアとの認識の乖離(かいり)が埋まらないのは残念な話である。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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