ハプニングに動じなかった日本代表 連勝ストップも見えた収穫とは?

宇都宮徹壱

酒井の初ゴールで先制するもPKで同点に

前半39分、酒井(写真右)の代表初ゴールで先制する 【写真は共同】

 フィジカル的にもメンタル的にも、準備が万全ではない中、両チームの試合の入り方は対照的なものとなった。日本が「最初からアグレッシブに行く」(森保監督)という姿勢だったのに対し、ベネズエラは相手の勢いを巧みに削ぎながら、次第に自分たちのリズムを作っていく。

 そんな中、テジョンでのリベンジを誓う2人が見せ場を作った。前半11分、日本守備陣の連携ミスを突かれ、ロンドンに押し込まれたボールをギリギリのタイミングでクリアしたのは冨安だった。26分には、大迫からのラストパスを受けた堂安が、利き足ではない右足でシュートを放つも、弾道はわずかにポスト左をかすめる。

 この頃になると、十分に体が温まってきた攻撃陣が躍動し始める。前半30分には、吉田の縦パスから抜け出した南野が左から中央に折り返すも、大迫に届く前に相手DFがクリア。34分には、大迫のスルーパスから抜け出した中島が相手GKと1対1となるも、シュートはカットされてしまう。再三チャンスを作りながら、このままハーフタイムかと思われた前半39分、ようやく試合が動く。相手陣内の右サイドから中島がFKを蹴り込むと、フリーで飛び出した酒井が右足ボレーでネットを揺らす。酒井は代表49キャップ目にして、これがうれしい初ゴール。前半は日本の1点リードで終了する。

 後半の日本は、難しい展開を強いられた。前半のベネズエラは、経験の浅いセンターバックで起用したことで守備の安定を欠いていたが、ハーフタイムでしっかり修正。さらに後半20分には、攻撃の選手を3人入れ替えることで、前線に新たなリズムが生まれる。これと対照的に、後半の日本はチャンスメークの回数が激減し、我慢の時間帯が続いた。日本のベンチが動いたのは後半23分、中島と大迫に代えて原口元気と北川航也。さらに32分には、南野と堂安も下げて、伊東純也と杉本健勇をピッチに送り込む。日本の攻撃を引っ張ってきた4人は、これで総入れ替えとなった。

 それでも決め手を欠く中、ついに日本は同点に追いつかれてしまう。途中出場のルイス・ゴンサレスを、酒井がペナルティーエリア内で倒してPKを献上。これをキャプテンのリンコンにきっちり決められてしまう(後半36分)。やがてアディショナルタイムが5分と表示されると、日本はパワープレーの姿勢を鮮明にしていく。アディショナルタイム2分には、伊東の右サイドからの正確なクロスに、吉田が頭で反応してネットを揺らすもオフサイドの判定。結局、日本はベネズエラの堅い守備を崩すことがかなわず、1−1のドローで試合を終えることとなった。

臨機応変に対応できたことが一番の収穫

試合は引き分けに終わったが、初出場ながら持ち味を生かしたGKシュミットをはじめ、数々の収穫は見られた 【Getty Images】

 森保体制となって4試合目で、連勝ストップとなったベネズエラ戦。とりわけ象徴的だったのが、堂安・南野・中島の3枚と1トップの大迫が結果を残すことなく、いずれも試合途中で退いたことである。当人たちも、その点を強く自覚している様子。堂安は「(求められているのは)得点だと思います。1試合に1点、絶対取ることが目標ですし、それができないと生き残っていけない」。南野は「今日は(ボールを)失う回数が多かったです。どうやって味方につなげるか、別の選択肢もあったんじゃないか。それとシュートもちゃんと打てていなかった」と悔しさのにじむコメントを残している。

 この試合を端的に表現するならば「アジアカップに向けて、課題と収穫が明らかになった試合」と言えよう。課題はやはり、今の攻撃陣が抑え込まれた時の対処法が見当たらないこと。「日本に対して、やりづらいプレーを強いることを目指した」とドゥダメル監督は語っていたが、アジアカップの対戦相手も対策を講じてくるはずだ。攻撃陣のオプションについては、森保監督自身も「チームとしてもう1セットくらい、より多くの選手が絡んで来られるようにやっていかなければ」と語っているが、果たして本番までにその解が見つかるだろうか。おそらく次のキルギス戦は、その模索に費やされることになるだろう。

 一方で、収穫もいくつかあった。まず、今回が初出場となったシュミットが、長所である足元の確かさを生かしながらビルドアップで貢献していたこと。これがスタメン2試合目となるセンターバックの冨安が、20歳とは思えない堂々としたプレーを見せていたこと。また不発に終わったものの、アディショナルタイムで見せたパワープレーは、本番に向けたシミュレーションとして悪くなかった。とりわけ、思わぬアクシデントでアップ時間が限られていた中、選手たちが臨機応変に対応できていたことは、この試合の一番の収穫であったと言ってよいだろう。

 アジアカップは、何が起こるか分からない大会である。今回の開催国であるUAEは、ある程度インフラが整っている国だが、それでも思わぬハプニングに遭遇する可能性は十分に考えられる。その予行演習が、図らずも国内で体験できたことは、むしろポジティブにとらえてよいのではないか。それと関連して言えば、大分の運営に対して厳しい意見がネット上で散見されたが、私はむしろよくやってくれたと感じている。帰りのシャトルバスの運行もスムーズだったし、雨の中で懸命に誘導するボランティアの姿には感動さえ覚えた。森保監督ではないが、今回の試合開催に尽力した皆さんに、心から感謝したい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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