ハプニングに動じなかった日本代表 連勝ストップも見えた収穫とは?

宇都宮徹壱

兼任監督は「メリットしかない」?

日本代表の森保、ベネズエラ代表のドゥダメル両監督ともに、A代表とアンダー世代の指揮官を務める。2つの世代を率いることはメリットばかりなのだろうか 【Getty Images】

 日本代表の11月シリーズは、16日の大分スポーツ公園総合競技場からスタートする。大分での代表戦は、15年3月27日の対チュニジア戦以来3年ぶり。森保一監督率いる日本代表が、ここ大分で迎え撃つのは南米のベネズエラ代表である。このカードが発表された時、まず思い出したのが、韓国で昨年開催されたU−20ワールドカップ(W杯)。この大会でベネズエラは、準優勝という見事な結果を残している。

「COMMEBOL(南米サッカー連盟)の中でU−20W杯のファイナルを戦ったのは、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、そしてベネズエラだけだ。われわれが準優勝したことで、国内での期待も高まっている。あの大会で活躍した若手選手たちが、サロモン・ロンドン(ニューカッスル・ユナイテッド)やトマス・リンコン(トリノ)やロベルト・ロサレス(RCDエスパニョール)たちと融合することで、いずれはA代表のW杯初出場の可能性も高まってゆくと思う」

 前日会見でそう語るのは、ベネズエラ代表のラファエル・ドゥダメル監督、45歳。昨年のU−20代表を率いていたのも、実はこの人である。のみならず、現在は東京五輪を目指すU−21代表とA代表の監督も兼任している。2つの代表の兼任、そして世代間の融合を託されているという点では、日本の森保監督とまったく立場は同じ。果たして、2つの世代のチームを率いることについて、ドゥダメル監督はどう考えているのだろうか。

「(兼任の)メリットとしては、2年後(五輪)から4年後(W杯)にプレーする選手を直接見ることができること。世代間の融合によって、若い選手に刺激を与えながら成長を促すこともできる。デメリットとしては、大会が重なった時に若いチームの指揮を執れなくなること。とはいえ、A代表の選択肢が増えるということを考えるならば、2つのチームを兼任することはメリットしかないと思う」

 今回対戦する日本については、「クオリティーが高い」とか「ロシアでのW杯出場を含めて国際経験豊か」などと持ち上げていたドゥダメル監督。しかし昨年のU−20W杯では、大田(テジョン)で行われたラウンド16で日本と対戦し、延長戦の末に1−0で勝利している。あの試合に出場していた堂安律や冨安健洋にとって、このベネズエラ戦はまさに「リベンジマッチ」。それぞれ期するところがあるのは間違いないだろう。

渋滞に巻き込まれるアクシデント発生

渋滞に巻き込まれるアクシデントに見舞われたが、定刻通り19時30分にキックオフ。写真はこの日のスターティングイレブン 【Getty Images】

 試合当日の大分は小雨模様。スタジアムの屋根を久々に閉じての試合開催となった。しばらく記者席で仕事をしていたのだが、ふといつもの代表戦と何か様子が違っていることに気がついた。ずっとBGMは流れているのだが、スタジアムDJのアナウンスが通常より少なめ。キックオフ90分前には、スタジアムに到着した日本代表が様子が大型モニターに映し出され、スタンドが大歓声に包まれるのだが、今日はそれすらもない。

 おかしいなと思いながらも、そろそろスタメンのリストが出る時間なので、記者席を離れてメディアルームに向かう。するとスーツ姿のJFA(日本サッカー協会)の広報スタッフを、取材者がぐるりと取り囲んでいる様子が視界に飛び込んできた。何事かと聞き耳を立てると、日本代表を乗せたバスが渋滞に巻き込まれて、まだ会場に到着していないという。加えて、ベネズエラ代表と審判団も移動中とのこと。時計を見ると、すでにキックオフ60分前を切っている。それなりに長く代表戦を取材しているが、このようなハプニングに出くわすのは初めてである。

 ちょうどその頃、日本代表のバスはどうなっていたかというと、周囲の懸命の努力に支えながら懸命にスタジアムを目指していた。森保監督によれば「地元大分の警察の方々、そして観戦に行く途中のサポーターの方々が道を空けてくださったおかげで、何とか時間内に到着することができました」。結局、日本代表が会場にたどり着いたのは、ベネズエラ代表と審判団の到着から4分遅れの18時49分。ピッチ内でのアップ開始は、キックオフ26分前の19時4分であった。

 こうした慌ただしい状況の中で発表された、日本のスターティングイレブンは以下のとおり。GKシュミット・ダニエル。DFは右から、酒井宏樹、冨安、吉田麻也、佐々木翔。中盤はボランチに柴崎岳と遠藤航、右に堂安、左に中島翔哉、トップ下に南野拓実。そしてワントップに大迫勇也。守備陣の3人が入れ替わった以外は、ウルグアイ戦と同じ顔ぶれである。注目は、これが初キャップとなるシュミット。第3GKの扱いだったが、197センチという高さと足元の技術を、この晴れ舞台でアピールしたいところだ。

 結果として当初の予定どおり、19時30分にキックオフのホイッスルが鳴り響くこととなった。テレビ中継のスケジュールが優先されたわけだが、その代償として選手のアップ時間は極端に切り詰められてしまった。局側の事情は十分理解できるが、せめて5分程度はキックオフを遅らせる判断があっても良かったのではないか。プレーヤーズファーストを考えるなら、試合後の監督や選手のコメントを多少カットしてでも、もう少し選手のアップ時間を確保してほしかったと個人的には思っている。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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