【ラグビー/NTTリーグワン】「誇らしく思った」弟の姿。闘病を乗り越える力を与えてくれた兄の姿。夢を実現した兄弟の“1分間”<花園L vs 相模原DB>

弟の田中伸弥選手(相模原DB)と兄の田中健太選手(花園L) 【©ジャパンラグビーリーグワン】

マッチエピソード&記者会見レポート
花園L 36-46 相模原DB


花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)のレギュラーシーズン最終戦、三菱重工相模原ダイナボアーズ(以下、相模原DB)とのホストゲームは36対46で敗れた。

花園Lが昨季の成績を超えるために、「万全を期して臨んだ」(向井昭吾ヘッドコーチ)試合は、前後半ともに立ち上がりで相模原DBに得点を許し、後手に回った。それでもセミシ・マシレワのビッグゲイン、クウェイド・クーパーのインターセプトなど、スタンドを沸かせる見せ場も作り、22対26で試合を折り返した時点では、勝負の行方は分からなかった。

リードされた中で、花園Lは開幕戦のリベンジを果たすべく攻勢を強めるも、逆転することはできなかった。

野中翔平キャプテンが敗因として試合後に語った、「システムを遂行するための、自分たちに備わっているはずのスキルを出せなかった」という状況を、正念場となる入替戦の前に課題として持ち帰れたことは収穫と言えるだろう。

この試合では、兄の田中健太(花園L)と、がんの闘病を乗り越えて初めてメンバー入りした弟の田中伸弥(相模原DB)の初の兄弟対決も注目を集めた。

後半21分からグラウンドに立った田中伸弥は、その瞬間をこう振り返る。

「1キャップの重みがすごく感じられました。大声援が聞こえて、想像以上にうれしかったですし、これがプロの舞台なのかと、すごく手足が震えるような状態でした」

その姿をグラウンドの中から見ていた田中健太は「弟の苦しんでいるところ、絶望感を味わったところを全部見てきました。弟と一緒にピッチに立てるのだろうかと考えつつ、この1週間を過ごしました。グラウンドに弟が入ってくるところを見て、スタンドが沸いていて、自分も誇らしかったです」。一緒にグラウンドに立った時間は1分だけだったが目を細めた。

田中伸弥が出場できたのは、グレン・ディレーニー ヘッドコーチからの贈り物ではない。治療の影響で低下したという心肺機能を改善し、直前の練習試合で評価を得た努力の賜物だ。

ラグビーへの熱い思いもあった。

「昨シーズン、(花園Lが)コベルコ神戸スティーラーズに勝った試合を治療の合間に見ました。お兄ちゃんがベンチから飛び跳ねてチームメートと抱き合っていた姿を見てすごく胸が熱くなって、本当にラグビーをやりたいなって思いました」

グラウンドでの田中伸弥はラックで体を張り、逆転を狙って猛攻を仕掛ける花園Lをチームメートとともに必死に食い止めた。

「自分のプレーができたと思うので、今日は良い1日だったと思います」と田中伸弥。

「初戦は必ず勝って大阪に戻りたいと思います」と入替戦に向けて意気込む兄に対し、弟は「スクラムで相手を圧倒してほしい」とエールを送った。

(宮本隆介)

花園近鉄ライナーズの向井昭吾ヘッドコーチ(左)、野中翔平キャプテン 【©ジャパンラグビーリーグワン】

花園近鉄ライナーズ
向井昭吾ヘッドコーチ

「万全を期して最終戦で開幕戦のリベンジをしたかったのですが、前半、後半ともに入りが非常に悪く、そこで点を取られたことによってこの結果になりました。(前後半の立ち上がりの)失点がなければ、クロスゲームでどうなったか分からないという展開に持ち込めたと思います。ブレイクダウンに持ち込んでもボールが出ないなどの改善点を修正して入替戦に臨みたい。絶対にこのステージ(ディビジョン1)に残りたいですし、残らなければダメだと思います。対戦相手がどこになるか分かりませんが、またチャレンジしていきたいと思っています」

――D1/D2入替戦に向けて改善したいと考えているところはどこでしょうか?
「先週の埼玉パナソニックワイルドナイツ戦はチャレンジしてブレイクダウンもしっかりできました。勝てませんでしたが、すごくいいゲームができたと思います。クロスゲームに持っていけたというところについては、(試合に向けて準備して)持ち込んだ部分をしっかりと試合で出す。それを継続できると私たちのトライも生まれているので、シンプルなところをしっかりとやれるかどうか。そこに厳しく向かい合って、すぐ倒れるのではなくて0.5秒でも踏ん張ってボールを前に持っていく気持ちに加えて、勝ちたいとか(D1に)上りたいという気持ちで、入替戦では相手が挑んできます。そこに気を付けながら、テクニックのところについてはブレイクダウンをしっかり修正していきたいと思います」

――今季の総括と成長を感じられた部分、収穫を教えて下さい。
「私たちのチームは50人ぐらいのメンバーを使っていますが、他チームは38から41人ぐらいの規模です。私たちのチームは若いので、この経験は逆にプラスになっていて、その経験を基にしっかりこの入替戦の2試合を勝って残れば、来季もう少しジャンプアップできるチームに変貌するのではと思っています。先ほどから“メンタル”ということを言われていますが、メンタルというよりは、このチームの分け方にAとBがありますけれども、自分たちは“彼がボール持つところまではやってくれるだろう”という予測があって、今日はその選手がやり切れなかったというか、本当はサポートをしてしっかりとブレイクダウンを頑張っていいボールを出すところ、なおかつ相手のブレイクダウンでボールを確保したのにターンオーバーされるというような、普段だったら起こらないんですがボールが出てくるだろうという安易な気持ち(があった)。確実にその場所に行って、今までやってきたランニングをしっかりやって自分たちがエリアを取るというようなことができれば、自分たちのペースになってしっかりボールをキープできるし、エリアも取れたと思います。チームのこれからだと思うところについては、試合ごとに成長もするけれども失敗もする。ゲームにおいて負けているところについては、失敗のほうが成功よりも少し多いという形なので、このあとの2試合は失敗よりも成功のほうが多くて、得点で上回っているというゲームにしたいです。今季、来季、そしてその次のシーズンと積み上げれば非常に良いチームで強いチームに変わると私は思っています」

花園近鉄ライナーズ
野中翔平キャプテン

「本当に悔しいし、恥ずかしいという気持ちです。戦術的であるとかシステムであるとかそういった部分以前の、メンタルと言うつもりはないですけど、そういうところを出せなかったのは、本当にキャプテン、リーダーとして僕の責任が大きいと思っています。まずは自分がやるところやチームに改善させるところをやって、残り2試合の入替戦でしっかり(力を)発揮できるように、悔しい気持ちを忘れずにやっていきたいと思います」

――メンタル面で問題があったと言いましたが、闘志が足りなかったといったことでしょうか?
「『メンタルとは言いたくないです』という表現をしました。システムを遂行するだけのスキルが自分たちに備わっているはずなのに、それを出すことができなかったのは、精神的要因も大きいのではないかという解釈をいまの段階ではしています」

――2年連続でD1リーグ戦最下位の結果を受けて、どのように入替戦に臨みますか?
「1年ずつやってきた結果が2年続いているという感覚です。確かに数字という事実を見れば2年連続ですが、今季は今季のチームとして力を発揮することができずに最下位になったということをまず受け止めなければいけません。過去のことは、振り返っても特に何もないと思っているので、前だけを見ていい準備をしていきたいと思います」

――ミスが影響してシステムを遂行することができなかったのでしょうか?
「80分の中でミスをしていいタイミングはないですが、勝ちを逃すチームの典型は確実にしてはいけないタイミングでミスをしてしまう。それがあったという感覚です。いつもできているところというのは、ファーストコンタクト、ファーストタックル、ブレイクダウンのスキルです。先週の試合、先々週の試合でそこに相手の強みは確かにありましたが、それをはね返せないほどのスキルのなさはないと思っていたので、できると思うところを今日は出せなかったという表現をしました」

三菱重工相模原ダイナボアーズのグレン・ディレーニー ヘッドコーチ(右)、鶴谷昌隆バイスキャプテン 【©ジャパンラグビーリーグワン】

三菱重工相模原ダイナボアーズ
グレン・ディレーニー ヘッドコーチ

「今日の自分たちのフォーカスは田中伸弥選手でした。彼が乗り越えたことをみんなも理解していますし、私たちの1週間の中心になって、本当にラグビーより大事なものがいっぱいあるということを分からせてくれました。彼の地元でまたプレーすることができて、そこで伸弥のために勝つことができたので最高です。伸弥も家族の前でプレーできて本当にうれしそうだったので、自分もすごくうれしいです」

――田中伸弥選手のポジションはバックローですが、背番号を23にした理由は何だったのでしょうか?
「普通はベンチにフォワード5人、バックス3人の組み合わせが多いですが、花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)さんはフォワードがとても強いと分かっていたので、今週は6人のフォワードを(控えに)入れました。19番と20番はフォワードですが、彼が23番だったのはたぶん、21番と22番が入らないからという、(ジャージーの)サイズの問題だと思います(笑)」

――勝利で最終節を締めくくった今季を振り返ってください。
「選手たちが私たちのやりたいことに完全にコミットしてくれたことをすごく誇りに思います。今シーズン、ラグビーを改善し続けることができて満足しています。6勝できたのは過去ベストですし、勝ち点も昨季よりも多く、自分たちの歴史を変えることができました。みんながすべてを出し切ったおかげです。これから僕たちがどこまで行けるのか、みんな楽しみにしていますし、そこに行けるようにまた今後も頑張っていきたいと思います」

――レベルが高くなったリーグワンで昨季よりもいい成績を残せた要因は?チームの強みは何だったのでしょうか?
「自分たちが誰なのかを知ることがとても大事です。自分たちの会社の歴史を知ることもそうですし、このジャージーを着る意味を理解しなければいけないと思いました。それをこの2年間でできたと思いますし、自分たちのアイデンティティーを作ることができました。それに合わせて自分たちのラグビーをそこに加えないといけないと思いますし、キャプテンが言ったように自分たちのDNAを持ちながらそれをみんなに見せることが大事です。このリーグはどんどんレベルが高くなっていますが、自分たちもハードワークしながらどんどん上で戦える、このリーグにいる価値があるチームになりたいという気持ちがあります。まだまだ自分たちが行きたいところまでは行けていないですし、まだ成長しないといけないところはありますけど、ちょっとずつでも成長は確実にできているのでそれをやり続けることが大事だと思います」

――東大阪市花園ラグビー場でのサポーターの雰囲気をどのように感じましたか?
「東大阪市花園ラグビー場は日本で一番好きなグラウンドというぐらいすごく気に入っています。ラグビー専用グラウンドで、ファンからのエネルギーがすごく伝わってきて、みんながラグビー大好きというのも伝わってくるので、ここに来るのもチームとしてワクワクしています。花園Lとのハードバトルを覚悟しながらも、本当に素晴らしい雰囲気の中でラグビーができることも分かっているので、自分もコーチとして楽しみにしています」

三菱重工相模原ダイナボアーズ
鶴谷昌隆ゲームキャプテン

「グラックス(グレン・ディレーニー ヘッドコーチ)が就任してから、ハードワークのDNAを全員がしっかりと頭に入れて、今週の頭からそこにフォーカスしてやってきました。今日の試合はミスで点を取られるところもありましたが、最後まで選手一人ひとりがグラウンドで(ハードワークを)体現できたことはすごく自分自身も誇りに思います。来シーズンにつながった試合だと思うので、これからもチームで一つひとつ階段を上って、レベルアップしてまた来シーズンに向かいたいと思います」

――田中伸弥選手はチームにとって、あるいはキャプテンにとってどんな存在ですか?
「ムードメーカーでもありますし、彼は今まで2回つらいことを経験して、それを乗り越えたというところが、チーム全員にすごくプラスになっていると思います。そのつらさを練習やグラウンドで、みんなでしっかりコネクトしながら乗り越えていくというところで、チーム全体としてコネクトの中心にあった選手だと思います」

――チームの歴史やアイデンティティーを知る上でどんな取り組みをしましたか?
「私たちは会社の工場の敷地の中でトレーニングをしています。選手はその工場がどんな仕事をしているのかを見学し、岩崎弥太郎から始まった歴史をヘッドコーチがプレゼンしてくれて、選手一人ひとりがいまの三菱重工相模原ダイナボアーズはどういうふうにできたのか、歴史をみんながしっかりと学んだ上で自分たちのDNAは何かというところでたどり着いたのが、ハードワークやフィジカルダイレクトです。『DNAは何ですか?』と問われて、選手一人ひとりが『ハードワーク』と答えるチームになったと思います」
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著者プロフィール

ジャパンラグビー リーグワンは、「あなたの街から、世界最高をつくろう」をビジョンに掲げ、前身であるジャパンラグビー トップリーグを受け継ぐ形で、2022年1月に開幕した日本国内最高峰のラグビー大会です。ラグビーワールドカップ2023を控え、セカンドシーズンとなるリーグワン全23チームの熱戦をご期待ください。

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