連載:侍ジャパン、2020への現在地

【日米野球】MLB捕手の印象に残った2人の打者と、侍ジャパンが得た収穫

中島大輔
 2020年東京五輪での金メダルへ、日米野球は貴重な国際試合の場。MLB選抜との全6戦で得られる収穫と侍ジャパンの現在地を、中南米の野球にも詳しい中島大輔氏が伝える。

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初見の相手に日々適応

計6戦の日米野球で、岡本(左から2番目)ら若手選手が得た刺激は大きい 【Getty Images】

「2018日米野球」が開幕する2日前、11月7日に行われた台湾との強化試合で3打数無安打に終わった秋山翔吾(埼玉西武)は短期決戦に求められる心構えをこう話していた。

「今日のボールの見え方、コンタクトの仕方は悪くないんですけど、結局、結果が出ないと意味がない。こういう短期決戦では次につながらないし、同じ相手と戦うことはまずないので。そういう相手に対して、すぐに結果を出せるようにしないといけない」

 日本ではなかなか目にしない“動くボール”や“強いボール”を操り、高い打撃技術やパワーを誇るメジャーリーガーに日々順応し、侍ジャパンは日米野球を5勝1敗で勝ち越した。短期決戦でつかんだ手応えについて、稲葉篤紀監督はこう話している。

「本当に選手がよくやってくれたと思います。逆転勝利を3試合したのは選手の力ですし。私の采配ミスもたくさんあったところを選手がたくさんカバーしてくれました。私はまだまだと思っているので、もっと勉強して成長していかないといけないと思います」

MLBが見た日本、日本が見たMLB

MLBにもっともインパクトを与えた柳田は、日本の若手にとっても道標となる 【Getty Images】

 何より勝利を求める侍ジャパンに対し、シーズン終了後に異国へツアーに来ているMLB選抜という構図の中、何より未来につながるのは個々の経験だ。

 2018年シーズンに捕手部門のシルバースラッガー賞に輝き、今シリーズでは打撃、リードで一流メジャーの実力を発揮したJ.T.リアルミュート(マーリンズ)は最終戦の前、マスク越しに残った印象についてこう話している。

「いい選手はたくさんいたよ。セカンドの山田(哲人/東京ヤクルト)はバッティングのアプローチがよく、投球に対していいスイングをしていると思う。じっくりと構えて、ストライクゾーンから外れる球にはあまり手を出さない。左打ちの柳田(悠岐/福岡ソフトバンク)はスイングが主砲らしい。見るからにパワーがあるし、いろんなコースをヒットにしてくる。打席でのアグレッシブという点では山田を上回っていると思う」

 センターから逆方向に2本塁打を放った柳田は今回、メジャーリーガーたちに最もインパクトを与えた。そうしたパフォーマンスが意義深いのは、個人としての実力を示したことはもちろん、若手の道標になるからだ。

 今シリーズの6試合すべてで安打を放った上林誠知(ソフトバンク)は、日米野球の先にあるものを見ていた。

「今日のマリナーズのラミレスのカットボールはメジャーを感じました。あのピッチャーよりすごい人があっちにはもっといると思うので、体感できたのは良かったですね。(向こうのバッターとは)パワーの違いを感じました。ただギータさんを見ていたら、引けを取らないバッティングをしていたので。ああいうバッターにならないと通用しないと思いました」

日本代表同士での刺激も

日米野球は選手にとっても非日常の場。得られた経験は貴重なものになる 【Getty Images】

 上林が柳田を通して世界基準を知った一方、源田壮亮は西武でともにプレーする秋山の創意工夫からヒントを得た。

「いつもより足上げを小さくしたり、タイミングを変えたりというのを見て、秋山さんみたいなバッターでもそういうことをするんだなと思って、僕も始動を早くしてみたり、いつもよりボールを中に入れてみたりといろいろ試してみました。三振しない工夫は来年以降につなげられるような収穫だったと思います」

 2試合で先発マスクをかぶった森友哉(西武)は、「まだまだそこ(東京五輪)を目指してやるような選手ではないですし、とりあえず来シーズンしっかりプレーするように」と自身のレベルアップを誓った。

「今回つかんだのは配球面が一番大きいですね。いろいろな引き出しが増えたので。シーズン中でも外国人と対戦する機会がいっぱいあるので、そういうときにこの経験が少しでも生きたらいいなと思います。バッティングでは調子が悪かったときに、今大会の引き出しというか、コンパクトなスイングや足の上げ方をできればいいですね」

 普段と異なる経験をするからこそ、得られるものがある。それは稲葉監督にとっても同じことが言える。

「どのオーダー、どのピッチャーを起用したら勝っていけるのか、コーチとこの10日間で非常に話し合えました。ジャパンとして集まる機会が少ない中、話をできたのは非常に大きなことだと思います。『こういうバッターが大事だよね』『こういうピッチャーが必要だよね』と細かい話までできたので、これからもそういう選手を見ていきたいと思います」

 台湾戦からの10日間でそれぞれが課題を設定し、メジャーリーガーと対峙(たいじ)しながら世界基準を体感した。そこで得たものを来シーズンのペナントレース、そして侍ジャパンとしては来年のプレミア12、2020年の東京五輪にどうつなげていくか。個々にとって未来への道標ができたことこそ、今回の日米野球を通じて得た最大の収穫だった。
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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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