メイウェザーから「日本でやりたい」 天心即OK ルールは“ほぼ”ボクシングか

長谷川亮

ピンチすらない無敗王者メイウェザー

世界一稼ぐアスリートであるメイウェザー(左)と、若くして日本の格闘技界を背負う那須川天心 【赤坂直人/スポーツナビ】

 12月31日・大晦日、埼玉・さいたまスーパーアリーナで開催される「RIZIN.14」にボクシング界の“レジェンド”フロイド・メイウェザー・ジュニアの参戦が決定。11月5日に都内で行われた会見にメイウェザーが来日して出席し、対戦相手の発表がなされた。

 1977年2月24日生まれ、現在41歳のメイウェザーは96年アトランタ五輪での銅メダル獲得を手土産に同年10月プロデビュー。そこから22年で築いた戦績は50戦50勝(27KO)無敗と、土つかずのパーフェクトレコード。

 当初は58.967kg以下のスーパーフェザー級でスタートしたが、キャリアとともに階級を上げていき、スーパーフェザー級、ライト級(61.235kg以下)、スーパーライト級(63.503kg以下)、ウェルター級(66.678kg以下)、スーパーウェルター級(69.853kg以下)と実に5階級の世界王座奪取に成功。階級を上げるにつれ、体格やパワー、耐久力の差に阻まれるのが常であるが、メイウェザーに関してはそれがなく、史上初めて、無敗のままでの5階級制覇を達成している。

 超人的な察知能力と反応スピード、さらに堅固なディフェンス技術を持ち、これまでオスカー・デラホーヤ、リッキー・ハットン、シェーン・モズリー、ミゲール・コット、サウル・アルバレス、マニー・パッキャオといったボクシング史に名を残す名選手たちを相手にしながら、いずれもピンチらしいピンチを迎えることなく退け、無敗記録に傷を作っていない。

 1試合で手にするファイトマネーは100億円以上と言われ、経済誌「フォーブス」が発表するスポーツ選手長者番付でも、あらゆるスポーツ選手を抑え1位に君臨。“キング・オブ・スポーツ”とも言われるボクシングの頂点にして、収入で言うならまさにナンバー1スポーツアスリートと言うべき存在である。

 最新の試合は当時UFCライト級王者であったコナー・マクレガーを迎え、昨年8月に行ったボクシングマッチ。試合はメイウェザーが10RにTKOで勝利したが、この試合は2015年の対パッキャオ戦(460万件)に次ぐ430万件という北米PPV売り上げ史上2位となる記録を残し、広範囲なファンの注目を集めた。

 これまでプロでの50戦を全て米国で行ってきたメイウェザーだが、この度初となる国外での試合がRIZINで決定。対戦相手は50戦50勝無敗の記録を持つメイウェザーにふさわしく、こちらもプロ32戦32勝無敗の“神童”那須川天心が用意された。

陣営「日本でやるならRIZINしかない」

メイウェザーは会見で“伸び”をするなど余裕しゃくしゃく 【赤坂直人/スポーツナビ】

 すでに十分な名声を確立し、富も得ているメイウェザーだが、今回の参戦は「お互いの“チャレンジしよう”という思いが1つになったのが経緯」と大会を主催するRIZIN・榊原信行実行委員長が説明。メイウェザーは「東京は世界の中でも大好きな街。もっと頻繁に戻ってきたい。RIZINはアンビリーバブルな素晴らしい会社で、これを皮切りにこの関係を世界に広げていきたい」と、RIZINとのパートナーシップ、そしてお気に入りの国・日本が開催地であることを試合を決めた理由として語った。

 対戦相手の那須川に関しては、ハイライト映像を見たと前置きした上で「若くて強い、動きの速い選手。これまで無敗であったということは正しいことをしてきたということ」とコメント。一方で那須川は初めて対面したメイウェザーに対し、「身長以上に大きく、すごくオーラを感じた。でもパンチは当たりそうだと思った」と印象を答える。しかしこれを聞いたメイウェザーは、歴戦の名王者たちを相手にほぼ被弾せず勝ち残ってきた自信がさせるのか、余裕の笑みを浮かべ拍手を送っていた。

 交渉の舞台裏について、会見後の囲み取材で榊原委員長は「10月に入ってから、どちらかと言うとメイウェザーのマネジメントチームから連絡をもらった。メイウェザーを日本の舞台にあげるならRIZINしかない、相談させてくれ、と。この1カ月で全ての話がまとめあげられた」と明かした。

 肝心の試合ルールに関しては、「RIZIN スペシャルスタンディングバウト」として行われる予定であり、「総合の試合にはならない」と榊原委員長。契約体重ともども未定だが、今後数週間の交渉により決定されるという。

「平成最後の異種格闘技戦」「果たし合い」といった独特の言い回しでこの一戦を表した榊原委員長だが、一部で“石橋を叩いて、それでも渡らない”とも言われるほど慎重なメイウェザーだけに、ボクシングに近いルールを要求してくることが予想される。競技規定と異なる試合時間や体重制限にしたり、シューズを履かないことで「これはボクシングではなく異種格闘技」とするなど……。

 同様に、会見後の囲み取材に応じた那須川は、「こんなチャンスはない。ここでやらなかったら一生メイウェザーとやることはないと思う。やるしかない」と話し、メイウェザーとの対戦を最優先し「この際ルールは何でもいい」とルールに関しては問わず、体重面でもメイウェザーに譲歩する構えを見せた。

 会見で余裕の態度を見せたメイウェザーに対し、「舐められてるのは分かっている」としながら「でも、やれないことはない」「ボクサーにはないタイミングと打ち方があるので、それを使って」と那須川。大晦日にジャンルと階級を超え、近代ボクシングが生み出した天才と戦うことが決定した。

 メイウェザーが日本格闘技のリングに立つことだけでも、かつてモハメド・アリがアントニオ猪木と対峙したことと同じく奇跡だが、果たしてその先、それ以上の奇跡を見せることはできるのか。
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著者プロフィール

1977年、東京都出身。「ゴング格闘技」編集部を経て2005年よりフリーのライターに。格闘技を中心に取材を行い、同年よりスポーツナビにも執筆を開始。そのほか映画関連やコラムの執筆、ドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(2017)『沖縄工芸パラダイス』(2019)の監督も。

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