ロッテ4位、山口航輝が乗り越えた苦境 ライバル・輝星との再戦を楽しみに待つ

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最速146キロの直球と、高校通算25本塁打の長打力を併せ持つ 【スポーツナビ】

 投げては最速146キロ、打っては高校通算25本塁打。千葉ロッテから4位指名を受けた明桜高・山口航輝は、投打に大きな才能を持った選手だ。昨夏は2年生ながら「4番・投手」を任され、まさにチームの大黒柱として活躍した。

「打たれる気がしなかったし、点の取られ方も分からなかった。そのくらい自信にあふれていました」

自慢の速球で次々と打者を抑え、秋田大会では25回3分の2を投げてわずか2失点。圧倒的な力を見せていた。

決勝では2年生エースだった金足農・吉田輝星を倒し、甲子園の土も踏んだ。だが、くしくもその試合で起きたアクシデントが、山口の運命を大きく変えることになる。

「もう野球できないんかな」

 決勝の5回裏、四球で出塁した山口は、吉田の鋭いけん制球に思わず逆をつかれた。慌てて頭から一塁ベースに帰塁した際に、右肩を痛めた。チームは5対1で勝利したが、自身は途中交代し、ベンチからその瞬間を見つめていた。甲子園では4番打者として出場したものの、マウンドには上がれず初戦の2回戦で敗退。新チームでは主将を任されたが、秋の大会はベンチにも入れずにスタンドからチームメイトを応援した。「『もう野球ができないんかな。今後どうなるんやろ』と、焦る気持ちしかなかった」と、一時は精神的にも追い込まれていた。

 だが、主将としての使命感が山口を奮い立たせた。「プレーができなくても、自分が先頭に立ってやっていかなければ」と、練習が満足にできない期間はゴミ拾いやトイレ掃除を率先してこなした。その合間に弱くなってしまった右肩のインナーマッスルを地道に鍛えるなど、マウンドに戻るための努力も欠かさなかった。その姿を見ていたチームメイトたちは「航輝を甲子園のマウンドに立たせよう」と結束した。

 最後の夏は「投手・山口」抜きで秋田大会を勝ち進んだ。山口も「投げられない分、バッターとして返す」と打ちまくり、計5試合で3割7分5厘、2本塁打、6打点の活躍。決勝では前年に破った金足農にリベンジを許し、準優勝に終わったが「(高校生活は)やり切った感がある。苦しいことも楽しいこともたくさん経験して、成長できたと思います」と笑顔で振り返った。

「ライバル」輝星の成長に刺激

プロの舞台で吉田輝星と再戦することを心待ちにしている 【スポーツナビ】

ライバルとして強く意識しているのが、同じ秋田でしのぎを削った吉田だ。2年連続で夏の秋田大会決勝でぶつかった相手だが、山口にとって3年夏の対戦は、今も強く心に刻み込まれている。

「2年の夏が終わった後、春の大会でも2回対戦したけど、そこまで打てないボールではなかった。でも最後の決勝は、ストレートの伸びがそれまでと違っていた」

 1年前の決勝では1安打を含め3打席全てで出塁するなど、吉田に“完勝”した山口。だが、今度は見違えるほどに成長したライバルの投球についていくことができなかった。4打数無安打3三振と沈黙し、チームも0対2で完封負け。その後、山口は地元の大阪府に帰省することもあり、明桜のチームメイトと一緒に金足農の1回戦を応援に行った。自分が立てなかった甲子園のマウンドで躍動する吉田を「遠い存在になってしまった。うらやましいな」と見つめるしかなかった。

 でも、羨ましがってばかりはいられない。山口はロッテ、吉田は北海道日本ハムと同リーグに進むこともあって、今はプロの舞台で対戦することを楽しみにしている。

「やっぱり意識しています。ピッチャーとバッターの勝負で自分が負けているので、プロの世界では勝ちたいと思います」

 まずは野手として勝負するつもりだが、投手へのこだわりも消えていない。夏の大会が終わった後も投手としての練習は続けており、痛めていた右肩も復調してきた。「60から70パーセントくらいの状態ですが、もう強めのボールは投げられます。できるなら二刀流としてやっていきたい」と、2つの武器を同時に磨いていく覚悟だ。

 秋田を沸かせた2人が再び対峙する時、山口はマウンドとバッターボックスのどちらに立っているだろうか。一刻も早くリベンジの舞台に立つことを信じ、プロの世界へ羽ばたいていく。

(取材・文:守田力/スポーツナビ)
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