古賀幸一郎が語る“リベロの見方”
「待って取る」ための駆け引きに注目
豊田合成トレフェルサの古賀幸一郎にリベロの役割について聞いた
豊田合成トレフェルサの古賀幸一郎にリベロの役割について聞いた【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 バレーボールのコートに立つ6人の中で、唯一直接得点を取ることのできないポジション。それがリベロだ。だがあくまでそれは、「直接攻撃をして点が取れない」ということで、確実に「リベロの取った1点」というべきポイントも存在する。


 26日に開幕したV.LEAGUE男子。27日に小牧スポーツ公園総合体育館で開催された豊田合成トレフェルサ対FC東京の開幕戦。試合開始直後の1点目はまぎれもなく、リベロが取った得点だと体現して見せたのが、5年連続ベストリベロ賞に輝いた豊田合成の古賀幸一郎だった。


 高松卓矢のサーブをレシーブしたFC東京は、手塚大のスパイクで1点目を取ろうとしたが、打った場所に古賀がいる。つないだボールをまたも手塚が打つも、再び古賀が拾う。逆サイドからの長友優磨の攻撃も古賀のレシーブが阻み、最後は豊田合成がネットタッチで得点した。大黒柱のイゴール・オムルチェンが欠場したことから「少なからぬ動揺もあり、キャプテンとしても何ができるか、鼓舞しようと高い集中力を持って臨んだ中、たまたま上がった」と古賀は言うが、相手からすればこれほど嫌な失点はない。FC東京の長友はこう言った。


「古賀さん、とにかく嫌です(笑)。サーブも、スパイクも1本目を拾われてしまうとリズムが作れない中で、古賀さんは作らせてくれない。違う人を狙っても古賀さんがいるので、すごくコントロールされているな、といつも感じさせられます」


 長友だけではない。多くの選手が古賀のレシーブ技術を称賛するだけでなく「対戦相手としてこれほど嫌な選手はいない」と口をそろえる。相手に嫌がられることほど光栄なことはない、と笑いながらも、自身では「自分をいいリベロだとは思わない」と古賀は言う。


 Vリーグの連続出場試合記録を更新し続け、リベロとして幾多ものキャリアを築き上げて来た古賀にとってどんなリベロが“いいリベロ”なのか。そもそもリベロの役割とは何か。古賀に聞いた。

リベロの役割はチームによって異なる

古賀 まず第一に、監督やチームに求められているプレーを体現できる人間。それは間違いなくいいリベロですよ。チームコンセプトを理解して、それをどう自分が体現すればいいか分かってできていればベスト。たとえば、レセプション(サーブレシーブ)がいいウイングスパイカーがそろったチームのリベロなのか、それとも少々レセプションに難はあってもオフェンスを重視しているチームなのか。それだけでもリベロの役割は全然違うはずです。


 オフェンシブなチームならば、当然スパイカーにかかるレセプションの負担を減らしてあげて、どれだけ優位な状況で打てるようなアプローチをつくってあげられるか。スパイカーによって、自分が取ってから入るほうがリズムを作れる選手もいれば、常にフルジャンプして打たないと勝負できない選手もいる。何もないまままっすぐ助走してバスケットボールのリングにジャンプするのと、体制を崩された状況からリングに飛びつくのを同じ時間でやらなければいけない場合、どっちが高く跳べるか、気持ちよく跳べるか。考えるまでもないですよね。「古賀さんが取ってくれる」と思えば全力で跳ぶ準備ができるわけだから、そこにアプローチする。そのチームがどういうことをやりたいか。そのために何をするのがリベロの仕事か。それを体現できるのがいいリベロなんだと思います。

リベロは動かずに「待って取る」のがベスト

華麗なプレーに目がいきがちだが、動かずに「待って取る」のがベストだと語る
華麗なプレーに目がいきがちだが、動かずに「待って取る」のがベストだと語る【写真:アフロスポーツ】

古賀 究極は、リベロは動かずに「待って取る」のがベストだと思うんです。そのために「ブロックはここを跳んでこう締めて」と伝えて、なおかつ自分も「ワンステップ横にいこう、ここで待とう」と考えて動く。ベースになるデータはあるけれど、バレーボールは1人でできるわけじゃないから、どの状況でどのボールにどの選手がいくか。それをしっかり描いておいて、なおかつ自分がそこでフリーに動きやすくできるような状況を作らないといけない。


 たとえばセッターが前衛の時、セオリーで考えればオポジットよりもブロックは低くなるし、確率で考えれば、相手はミドルのブロックに当てるよりもセッターに当てようとするし、セッターの上から打とうとする。じゃあそういう時はどうすればいいか。ブロックが低いならブロックの真後ろに構えて待つのではなくて、しっかり下がってブロックの上から打たれるボールに備えてくれれば、リベロの自分は逆サイドをケアしやすくなります。


 まず自分がどう動くのか、を考えるのではなく、こう動いたほうが確率は上がると思うから、他の人間を「こっちに入ってほしい」と動かしてから、自分が動く。そこで相手がセッターを狙わずに逆方向に2本続けて打ってきたとしたら、今度はそれを防ぐためにどんな策が有効かを考えて、また動かして、動く。もちろんそれが失敗することもあるし、できても相手が上回ることもあります。だから失敗、成功というのは大事なことじゃなくて、大事なのはやったかどうか。


 リベロが動き回って拾うよりも、動かず待って拾う。そのほうがずっと効率的で、ボールが上がる可能性も増えると思うんです。ブロックに当たったボールや、状況によってはフライングをしてボールを追いかけなければならないこともありますが、それは例外。あくまでベースはブロックでどこを抑えて、どこを抜かせて、どこを拾うか。自分がどこにいれば可能性が上がるのかを考えて体現するのがいいリベロなんじゃないかな、と。

田中夕子

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など、女子アスリートの著書や、前橋育英高校野球部・荒井直樹監督の『当たり前の積み重ねが本物になる』では構成を担当

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