予想上回った“金6個”のアジア大会 強化委員幹部3人が語る東京への強化策

月刊陸上競技

ワールドランキング制度発足への備え

ランキング制になって明確な数字が出てくることで、強化もそれに沿ったものにしなければいけないと山崎ディレクター 【写真:月刊陸上競技】

──これまでのアジア大会の総括を踏まえて、今後のことに話を移したいと思います。

麻場委員長 われわれとしては、来年のアジア選手権(4月21日〜24日/カタール・ドーハ)、ワールド・リレーズ(5月11日〜12日/横浜)、世界選手権(9月27日〜10月6日/ドーハ)という国際大会に、どういうステップで臨んでいくのかが大事だと思っています。一番のポイントは、東京五輪にどれだけのアスリートを送り込めるか。これに関してはアジア選手権が大きなカギになります。

河野ディレクター アジア選手権の代表選手選考要項は6月に発表していて「2018年12月31日時点のワールドランキングで……」とうたっていますが、ワールドランキング制度そのものの詳細が本来はIAAFから9月に発表されるはずだったのが来年1月に延びたので、「発表時点のランキングを基にする」という文言を付け加えました。

──アジア選手権はカテゴリーとしてワールドランキングのポイントが高いと言われているので、ほとんどの選手が狙うと思います。各種目で1カ国2名が最大エントリー枠ですが、人数の総枠を設けますか?

麻場委員長 大事な試合ですから、できるだけ多くの選手を派遣したいと思います。ざっくり言うと今年度の成績によって決まるワールドランキングの最上位は確実に選考し、もう1人はワールドランキングや2018年度の競技成績をもとに派遣を検討するわけですが、上位の出場意思次第では3位以降にもチャンスが回ってくるケースがあるかもしれません。今年度の成績でアジア選手権の代表を逃した選手は、来年別のルートでポイントを取っていくことになります。いずれにしても、どうポイントを取っていくかがすごく大事になってきます。

河野ディレクター 東京五輪に向けて、ポイントとしては6月の日本選手権より、4月のアジア選手権の方が大事になりますね。

──どの大会でどうポイントを取ったらいいのか、それは個々の選手がパーソナルコーチと話し合って決めるのですか?

河野ディレクター こちらからモデルケースを提示して、こういう階段を上っていったら展望が開けるよ、という話ができるようにしたいです。それは双方向でやっていかないと。

麻場委員長 強化戦略情報部という部門が強化組織の中にありますが、そこを中心にしながら、1人でも多く、1点でも多くポイントを取れるような仕組みを作っていきたいです。

河野ディレクター この試合があるから行く、というのでは対応が遅れます。選手はいつでもピークを合わせられるわけではないので、大きな試合、中くらいの試合、ウオーミングアップの試合をうまく連動させて、ここは順位を狙う試合、ここは記録を狙う試合というように意識的に自分たちで作り上げていかないと、ポイントが取れません。

東京五輪に向けた2つの柱

──東京五輪の強化の大前提は、まず「1人でも多くの選手を代表入りさせる」ということですか?

麻場委員長 それは2つの柱があって、1つは一番大きな目標にしている「メダル、入賞を1つでも多く」。しかし、そのベースとして「1人でも多くその場に立ってもらう」こと。この2つが柱になります。

──1964年の時と違って開催国枠がなく、ポイントの高い順ということになると、2つ目の柱はだいぶ心許ないですね。特に女子は数人ということも危惧されます。

麻場委員長 そうなんです。だからこそ、リレー種目は女子も何としても出場権をつかんでほしい。リレーがないと、大会そのものが寂しくなってしまいますから。

河野ディレクター 強化の方向性としては両輪になるでしょうね。メダルを狙えるカテゴリーの選手と、代表になれるかどうかのボーダーライン上の選手と。メダルを狙える位置にいる選手はきちんと代表になれるでしょうから、より高いパフォーマンスを東京五輪で出す準備をしていかないといけないし、線上にいる選手はそれを引き上げるサポートが必要です。
 DLに出られるような選手は無理にアジア選手権に出て行かなくてもいいでしょうし、確実に五輪代表へ近づこうというなら出る方向でもいいでしょう。しかし、ボーダーライン上の選手は絶対にアジア選手権へ出た方がいい。そこへの攻め方は、われわれもいろんな話をしていきますが、現場の人たちも東京五輪までのプランニングをきちんとやっておかないといけません。

山崎ディレクター ある意味、明確になるのです。数字が出てくるんですから。今までのようにとにかく記録を出して、出たとこ勝負で何かやろうというのはなくなって、どうやって試合に出て、どうやって強化していくと、ここまでたどり着くというのが分かるのです。

麻場委員長 それが、先ほど言った「どうステップを踏んでいくか」ということです。

山崎ディレクター その戦略に乗っていかないと、大変なことになるのです。(五輪に)行けそうな選手が適材適所でその大会に行かないと、結局代表に届かなくなります。

麻場委員長 このオフからは、種目というより個人をどうサポートするかが1つのテーマです。ワールドランキング制度の詳細が固まったら、もっと明確に話せると思います。

河野ディレクター 現場では温度差があって、ものすごく考えている指導者もいれば、まったく無頓着に試合に出ているところもあります。

山崎ディレクター 「分からなかった」「聞いていない」ではもう済まされないのです。コーチも選手も先を読んでやらないと。

──ポイントで代表が決まるようになると、日本選手権の価値はどうなるのでしょうか?

麻場委員長 日本選手権が国内で最重要試合であることは間違いないので、その成績は重要視していかないといけないと思っています。では、必ず日本選手権に出ないといけないかというと、そのあたりはワールドランキング制度の全容が明らかではないので、判断は先になります。

河野ディレクター 出なくても代表になれるけど、日本選手権チャンピオンにならなくていい、という選手がどれぐらいいるのか……。

山崎ディレクター 日本選手権は国内大会の中でポイントが高いですから、軽視しないのではないでしょうか。

河野ディレクター ともかく東京五輪に向けては総力戦だと思うし、英知を結集して臨まないとダメですね。

麻場委員長 どれだけきちんと情報を集めて、みんなで共有できるか。そのためには最初にお話したように、いろんな立場の人を味方にしないといけないと思っています。

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著者プロフィール

「主役は選手だ」を掲げ、日本全国から海外まであらゆる情報を網羅した陸上競技専門誌。トップ選手や強豪チームのトレーニング紹介や、連続写真を活用した技術解説などハウツーも充実。(一社)日本実業団連合、(公財)日本学生陸上競技連合、(公財)日本高体連陸上競技専門部、(公財)日本中体連陸上競技部の機関誌。

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