佐々木則夫×眞鍋政義、特別対談<後編> 戦術、W杯、五輪…監督の感覚を語る

田中夕子

W杯と五輪、それぞれの位置づけは?

11年の女子サッカー日本代表のW杯優勝は、女子バレー日本代表にも大きな勇気を与えた 【写真:ロイター/アフロ】

――女子サッカーは11年のワールドカップ(W杯)で優勝し、12年のロンドン五輪で銀メダル、女子バレーも銅メダルを獲得しました。その時の印象は?

眞鍋 サッカーのW杯優勝は今でもはっきり覚えています。ちょうどその時、我々は翌年の五輪に備え、ロンドン五輪の会場になるアールズコートで合宿をしていたんです。時差もあまりなかったので、チーム全員でサッカーを見て、勝った瞬間はみんなで大喜びして自然に「乾杯しよう!」と盛り上がりました。刺激だけでなく、ものすごく勇気をもらいましたね。自分たちも頑張れば五輪でメダルが取れるんじゃないか、と本気で思えた瞬間でした。

佐々木 それはうれしいね。バレーボールが「我々もメダルが取れる」と思ってもらったように、我々も自分たちが何かしらの刺激になれたのなら、何とか他競技にも達成してもらいたい、と思っていましたね。逆に我々はW杯で優勝した次の年にアジア予選を勝って何とかロンドン五輪に出られたけれど、もしかしたらその時のほうがプレッシャーはあったかもしれませんね。それで予選敗退なんていったら「ほら見たことか、あの優勝はまぐれだっただろ」と言われるだろうな、と。

――サッカーにはW杯、バレーボールもさまざまな国際大会がありますが、五輪の位置づけは?

佐々木 北京五輪までは日本のみなさんに女子サッカーW杯があることすら認識されていなかったと思います。中継もCS放送でやるくらいだったので、みなさんに知ってもらえる、応援してもらえる一番大きな舞台は五輪だったので、五輪を一生懸命頑張ってそれが終わるとベテラン選手が引退する、という流れでした。それぐらい、W杯以上に五輪がメインでしたね。11年のW杯からメディアでも取り上げてもらえるようになり、優勝してさらに多くの方々に見てもらえるようになり、女子サッカーのW杯もメジャーになった。今はW杯と五輪が同じぐらい、女子サッカーにとっては比重が高い大会です。

眞鍋 バレーボールでもやはり五輪は特別です。1964年の東京五輪から正式種目になって東洋の魔女が金メダル。どうしても「東京五輪」と言われれば東洋の魔女のイメージが強いでしょうし、プレッシャーも相当なもの。中田(久美)監督は大変だと思いますよ。

佐々木 日本代表を指揮する立場は離れても、五輪でチームスポーツがメダルに関わってほしいとは常々思いますね。バレーボールやサッカーのように世界の国々も数多く、勝つのが簡単ではない競技は大変です。でも、そんな中でも「前に優勝したよね」という期待もある。何とかメダルに関われるような位置であり続けてほしいですね。

眞鍋 同感です。チームスポーツでメダルを取るとやはり盛り上がりますからね。

佐々木 試合も長いしね。予選があって、トーナメントがある。この途中でたくさんのドラマが生まれるから。

眞鍋 五輪の選手村も水泳や柔道がメダルを取って帰っていく中、バレーボールやサッカーは始めから最後までいます。それでいて取れるメダルは1つですからね(笑)。1つではなく、サッカーは(登録メンバー分の)18個、バレーボールは12個と数えてほしいですよね(笑)。

佐々木 競技は1つだから無理だろ(笑)。

五輪の自国開催は貴重な経験 プラスに楽しんで

五輪へ向けて「プラスに考え楽しんで」と両氏。現代表チームに期待を寄せた 【坂本清】

――あらためて、東京五輪に向けて期待するところがあれば教えて下さい。

眞鍋 バレーボールは男子、女子、ビーチと3つあるのでできれば全競技、最低でも1つはメダルを取ってほしいですね。五輪まであと2年ですが、女子サッカーも強い国はもう決まっているんですか?

佐々木 オーストラリアやオランダのような大柄で体格がよく、粗かった国がどんどんテクニックを備えて、組織的になってきた。こうなると小柄な日本にとっては厄介になってくる。オーストラリアは僕が監督をしていた頃は3戦やれば3勝、または2勝1分けぐらいだったのに、今は1勝2敗も普通。当時は穴がいっぱいあったので、ここを突けば勝てる、という状況だったけれど、今は誰が監督をやっても難しいぐらい諸外国のレベルが上がった。そういう意味では高倉(麻子)さん(現代表監督)にとっては、私以上に大変な時代となっている。

眞鍋 バレーボールは今年世界選手権があるんです(女子は9月29日から開催中)。いよいよこの世界選手権から世界はベテランを戻し、強いチームをつくって来年のW杯、五輪へと完成されていく。この世界選手権で上位にいないと2年後の五輪ではなかなかメダルに手が届かない。世界選手権は一番の目安になる大会なので、今年は特に頑張ってほしいですね。

佐々木 本国開催の五輪なんて我々には経験がないからどれほどのプレッシャーがかかるか分からない。リオデジャネイロ五輪の予選も日本でやって、ホームの利点もあったけれど「勝たなければいけない」とプレッシャーもかかって、結局アジア3位で五輪には出られなかった。そうならないように、逆に自国でできるんだから楽しい、と思ってほしいね。結果を恐れずやらないと僕みたいに痛い目にあうかもしれないから。その点バレーはしょっちゅう日本で国際大会をやっているから慣れもあるんじゃない?

眞鍋 いえいえ。五輪となると違いますからね。代表監督のプレッシャーは相当だと思いますが、みんなが応援していることをプラスに考えてほしいですよね。

佐々木 その通り。東京での五輪に出場できる、携われるなんて今後はもうきっとありえないから。プレッシャーもあるだろうけれど、楽しみに変えて戦ってほしいね。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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