全日本女子に生まれた「意識の変化」 バックアタックが奏功、広がった攻撃の幅
会場のボルテージが最高潮に達した「ある場面」
2枚ブロックを打ち破った長岡(1)に笑顔で駆け寄る選手たち、会場は大いに沸いた 【坂本清】
会場のボルテージが最高潮に達したのは、デュースの末に第1セットを先取した後でもなく、試合終了の時でもない。2セットを連取して迎えた第3セット、22−23とドイツに逆転を許した直後の場面だった。
日本はセッターの田代佳奈美に代えてオポジットの長岡望悠を、新鍋理沙に代えてセッターの冨永こよみを投入した。
「朝から準備してきたことをつなげられるとしたら、ここしかない」。あの場面をそう振り返った冨永は、迷わず長岡にトスを上げ、「今自分にできることを果たしたい、という思いで打った」と言う長岡が2枚ブロックを打ち破る。
たった1点ではあったが、まるで勝利した後のように会場が沸き、コートもベンチも一体になって、その1点に歓喜する。田代と新鍋を戻し、ベンチに下がった長岡と冨永が抱き合い、満面の笑みを浮かべる。
相手の流れを断ち切り、デュースの末にストレート勝ちを収めた1点を、中田久美監督もたたえた。
「厳しい場面で長岡がよく決めてくれた。詰まった場面で何かをしなければならない、と思い切って使って、決まってよかった。1人1人が良い形で役割を果たしてくれて、良い形で(2次ラウンドが行われる)名古屋に入れると思います」
課題と収穫のどちらも手にした1次ラウンドは4勝1敗。日本は2位で2次ラウンドへの進出を果たした。
狙い通りの試合展開に持ち込んだアルゼンチン戦
「バックアタックが得意」と自認する黒後の活躍もあり、アルゼンチン戦では狙い通りの展開に持ち込んだ 【坂本清】
両サイドからの攻撃本数が多い日本に対して、対戦国も当然のように事前に対策を練る。まずはサーブで攻撃に入る前にプレッシャーをかけ、攻撃の選択肢を絞り、ブロック枚数を増やして攻撃を封じる。中田監督が「日本の生命線」とするサイドアウトからの攻撃でも、相手のブロックに屈する場面は多く見られ、ブロッカーを振ることに意識が集中するとトスが速くなり打ち切れない。そんな悪循環が続いた。
状況を打破すべく、ネーションズリーグからバックアタックを積極的に使おうと取り組んできたのだが、相手ミドルのプレッシャーや、「合わなかったらどうしよう」という不安が先立ち、試合の中盤、終盤になるにつれてその本数は減少。実際の本数は数えるほどだった。長岡が本格復帰を果たしたアジア大会からは本数も増えたが、ラリーや競り合った場面では攻撃が単調になりがちで、敗れた中国、タイ、韓国との試合では、相手にブロックポイントを献上する場面も目立った。
昨季からの継続、さらに今季の2大会で浮き彫りになった課題を踏まえて臨んだ世界選手権。最も理想に近い形でバックアタックを含めた攻撃展開ができたのが、初戦のアルゼンチン戦だった。
レフトの対角に入った古賀紗理那、黒後愛が前衛からの攻撃のみならず、バックアタックに積極的に入り、高い打点から力の乗ったスパイクを次々と打ち込む。セッター対角のポジションに新鍋が入ったこの試合は、黒後、古賀が後衛時にはサーブレシーブから外れるためサイドアウト時も攻撃準備ができる。そこで序盤からセッターの田代も積極的にバックアタックを使った。特に生きたのが黒後と古賀だ。
フロントからの攻撃と併せ、もともと「バックアタックが得意」と自認する黒後を序盤から使う。「打数が多ければ多いほどいい。前半からたくさん使ってもらって、自分も乗ることができた」と言うように、黒後、古賀の両エースを軸にミドルの荒木絵里香、奥村麻依、さらに新鍋を加えた多彩な攻撃でアルゼンチンを圧倒。荒木が「3大会前に開幕戦でチャイニーズタイペイに負けた強烈な記憶があったので緊張した」と言う開幕戦を快勝で飾った。