投手・大谷の2018年<後編> 球質とデータから見える改善ポイント
ジャイロ回転と故障には関係があるのか?
各試合の球種ごとの大谷のリリースポイント(横) 【出典『BrooksBaseball.net』】
各試合の球種別の大谷のリリースポイント(高さ) 【出典『BrooksBaseball.net』】
で、この2つの図を見ると、くだんのアストロズ戦は上記グラフでは「ANA@HOU(4/18)」の箇所だが、リリースポイントが低くなり、さらに三塁側寄りになっていることが分かる。
エクステンション(プレートからリリースポイントまでの距離)に大きな変化はないので、データからは肘が下がっていると想定できるが、このときの4シームのホップ成分(平均38.1センチ)と合わせ考えると、こんな現象が起きているのでは、と神事氏が指摘する。
「⼒を⼊れて体幹を勢いよく回すと遠⼼⼒が増えるので、それに耐えきれなくなって肘は伸ばされる。体幹を横に回した場合は、当然腕は横に振られる。この時、体から離れていくボールを引き留めようとすると、ジャイロの成分が増える傾向がある。そうすると球は揚⼒を失い、垂れる……」
そしてその投げ方は、リスクをはらむ。神事氏が続ける。
「腕が横振になると肘が下がる。それで引っかくようなフォームになって、肘の外反ストレスが増える」
このときすなわち、靭帯に負担がかかるというわけだ。
もちろん、大谷自身も気にはなっていたよう。
アストロズ戦の次の先発となった5月6日のマリナーズ戦ではリリースポイントが上がり、体に近い位置になった。軌道もわずかながら、ホップ成分(平均39.6センチ)が増し、シュート成分(平均14.9センチ)が小さくなった。
その変化を大谷に聞くと、こう言っている。
「前回(アストロズ戦)が良くなかった」
そしてこう言葉を足した。
「戻したというよりは、良くなかった点を直したという感じ。今日に関しても悪かった点は、フォームに関してもあるので、それは今日終わってから振り返って、あぁ、ここが良くなかったなと思う点は、次回以降にまた変えていきますし、もしかしたら、またそれが良くない可能性もあるので、それは1回1回勉強かなと思ってます」
なるほど、その後は平均値だけをたどれば、リリースポイントが高くなり、さらに体に近い位置に戻っているように見える。
しかしながら、改めて全試合のリリースポイントを1球ごとに確認したところ、5月30日のタイガース戦は、奇妙だった。
平均値ではむしろ体に近い位置で投げており、高さは平均的。ところが、初球から順にデータをたどると、高さが徐々に低くなり、さらに三塁側へのズレも大きくなっていった。
『Baseball Savant』のデータを元に作成。横軸は球数、縦軸はリリースポイントの高さ。単位はセンチ 【スポーツナビ】
『Baseball Savant』のデータを元に作成。横軸は球数、縦軸はリリースポイントの三塁側へのずれ。単位はセンチ 【スポーツナビ】
大谷が肘にはっきりと違和感を覚えたのは、次の登板(6月6日)の試合後である。
兆候はあったのかもしれない。
さて、今週にも大谷は肘にメスを入れるわけだが、リハビリを通して肘に負担のないフォームを模索するのだとしたら、やはりリリースポイントの見直しは課題の一つになるのではないか。
体から離れる癖を修正したいところだが、その場合、結果として回転軸が今のジャイロ気味のものから、バックスピン系に改善され、ゲリット・コール(アストロズ)やバーランダーのような球質へと変化することはないのか。また、そうすることで肘への負担も軽減され、故障の予防にもつながり得るのか。
神事氏に聞くと、「その可能性はあると思います」と話し、続けた。
「腕を縦に振れば、横振は回避できる。そうなれば、肘への外反ストレスは小さくなり、故障のリスクも減少。さらにジャイロ成分も少なくなるのでは」
だとしたら、それは手術の最大のメリットになりうる。
後は、投げられない時間をどう生かすか。それは大谷次第、ということになる。
ちなみに、05年にデビューしたバーランダーが故障者リストに入ったのは、15年に上腕三頭筋に張りを感じたときだけ、である。