投手・大谷の2018年<後編> 球質とデータから見える改善ポイント

丹羽政善

大谷の4シームは球速は速いものの、軌道はメジャー平均に近い 【Getty Images】

 投手・大谷翔平(エンゼルス)の2018年をデータから振り返る企画の後編。前回は大谷の4シームがメジャーでも屈指の球速を誇りながらも、被打率が3割8分を超えていることを紹介した。今回はその背景を探るとともに、右肘の故障につながった原因に触れていきたい。

大谷の4シームの回転軸の特徴

 大谷の4シームのデータを見ると、回転数は2200回転前後(1分間)でほぼメジャー平均。ホップ成分はといえば、先発10回の平均値が40.6センチで大リーグの平均値(43センチ、2017年データ『BASEBALL GEEKS』調べ)をやや下回る。シュート成分は15.8センチでメジャー平均(22センチ、同上)よりも小さいものの、相手にしてみれば、速いとは感じても(それだけでも大きな武器ではあるが)、伸び上がってくると錯覚することはないのではないか。

 この特徴をさらに理解するため、前回触れた4月24日のアストロズ戦の詳しいデータを見てみたい。投手の動作解析を研究している国学院大の神事努氏が監修をしている『BASEBALL GEEKS (https://www.baseballgeeks.jp/)』に掲載されていた図を引用させてもらうと、大谷の4シームが平凡な軌道であることが、よりはっきりと読み取れる。

4月24日、アストロズ戦での大谷の各球種の変化量。グレー箇所はMLB平均 【出典『BASEBALL GEEKS』】

 この図は4シームとスプリットのシュート成分が似通っていることも示し、2球種のコンビネーションがなぜ有効か、ということも分かるが、4シームだけを切り取れば、その動きはメジャー平均と近い。それはすなわち、打者の目が一番慣れているということでもあり、それは多くのケースで捉えやすさとイコールである。

 一方、ジャスティン・バーランダー(アストロズ)のデータについても調べてみると、4シームの回転数は2617(1分間)で、ホップ成分は51.2センチ、シュート成分は28センチ(いずれも18年平均値)だった。ホップ成分はメジャー平均を10センチ近くも上回り、前回触れたように大谷が「ファウルになるケースが多い」と漏らした要因ではないか。

 なにがこの差を生むのかだが、前回ピッチトンネルを解説してくれたバウアーに再度登場してもらうと、こう言っている。

「ボールの動きを決めるのは回転軸だ。回転数ではない」

 確かに大谷とバーランダーでは回転数に差があるが、バーランダーの4シームの回転軸は打者に向かって90度に近く、きれいなバックスピンがかかっているため、打者にはホップしているように映ると考えられる。

 対照的に大谷のそれは、投球解析の専門家でもある神事氏によると、「ジャイロの成分がある」そう。

 ジャイロ回転とは、進行方向と回転軸が一致する回転のことだが、通常のバックスピンにそれがミックスされることで、揚力を失う――。

 果たして、どうしてそういう回転になるのか。突き詰めると、そこに故障のリスク要因が見え隠れする。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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