マイアミ開催問題に揺れるラ・リーガ 会長同士の舌戦は収束する気配なし

「マイアミ開催はない」と断言するルビアレス会長

ルイス・エンリケ新監督の就任会見に出席したルビアレス会長(右) 【写真:ロイター/アフロ】

 スペインフットボール協会(RFEF)のルイス・ルビアレス会長が先日、ラ・リーガが実現に動いている第21節ジローナ対バルセロナ戦の米国・マイアミでの開催を承認する意思がないことを明言した。

「忘れた方がいい。マイアミ開催はない」

 ルビアレス会長が発したこの一言は、当事者であるカタルーニャの2クラブ以上に、他国でのマーケティング戦略に力を注いでいるラ・リーガのハビエル・テバス会長に向けられたものだ。

 29年もの間、RFEFを独裁してきたアンヘル・マリア・ビジャール前会長とテバスの政争と比べれば、まだかわいいものではある。だがルビアレスも同様に、自身がスペイン選手協会(AFE)の会長を務めていた頃から、テバスとは何度も対立してきた。ルビアレスがRFEFの会長選挙に出馬した際、テバスは「彼に務まる職ではない」と公言していたし、SNS上では「彼との関係が良好でないことは明らかだ」と自ら不仲を認めている。

 両者の対立の背景には、スペインのフットボールビジネスを巡るラ・リーガとRFEFの権力争いがある。その点、ルビアレスはRFEF会長に就任するやいなや、それが正しいかどうかは別として、スペイン・フットボール界におけるラ・リーガやビッグクラブの影響力を制限すべく努めてきた。

 フレン・ロペテギ前スペイン代表監督の解任騒動もそうだ。RFEFに何の相談もすることなく、スペイン代表がワールドカップ(W杯)ロシア大会の初戦を迎える直前に、突如レアル・マドリーが発表したロペテギの新監督就任は、RFEFの会長に就任して間もないルビアレスにとって、許しがたいものだった。

 レアル・マドリーとの対立をいとわなかった当時と同様に、今回もルビアレスは、手段を選ばず推し進めるテバスの国外進出に断固として異を唱えている。

 今回のマイアミ開催についてはすでにラ・リーガ、ジローナ、バルセロナの間で合意がなされ、三者からRFEFに承認を要請する公式書類が提出されている。これに対しルビアレスは、マイアミ開催の実現には、ラ・リーガ1部に所属する全クラブの承諾が必要であり、現時点ではRFEFも他のクラブも認める意向を示していないことを強調。さらにジローナのホームゲームである同試合のチケットや年間シートを購入している地元ファンが被る被害も指摘している。

キックオフ時間を巡っても対立する2人の会長

レバンテとバレンシアの一戦は、気温30度を超す猛暑の中で行われた 【Getty Images】

 ルビアレスとテバスが公に議論を交わしたテーマは他にもある。他地域でのテレビ放送時間は重視しても、夏場の猛暑は考慮せずに組まれたラ・リーガのキックオフ時間をめぐる問題だ。

 この件についてルビアレスは「気温30度を超える状況下での試合など非常識だ。金のために選手の健康を危険にさらすわけにはいかない」と訴え、試合時間の変更を強いたAFEの決断を支持。一方のテバスは「デマばかり流れている。数日前、気温32度のアラゴンで行われたマラソン大会では11万4千人ものファンが文句も言わず参加している」、「6月のW杯では気温37度の試合もあったが、何も問題は起きなかった」と返答した。

 さらにテバスは気温30度超、湿度95パーセントが予想されながら昼の12時キックオフで強行された、レバンテ対バレンシア戦について、「バレンシアで熱中症のふりをするファンが出てくることは予想していた」とまでコメントしている。

 両者の舌戦は終わりそうにない。マイアミ開催の阻止についてはレアル・マドリーのフロレンティーノ・ペレス会長、そしてFIFA(国際サッカー連盟)やUEFA(欧州サッカー連盟)の支持も受けており、ルビアレスは「彼はテレビの言いなりだ。テレビが決めるスケジュールに黙って従っている」とテバスを痛烈に批判。RFEFは8月にスーペルコパ・デ・エスパーニャをモロッコで開催しているが、「リーグ戦は前もって販売された年間シートの対象試合であり、1試合限りのカップ戦とは異なる」と主張している。

 ウルトラスの追放や女子フットボールの発展、八百長の撲滅など、テバスが成し遂げてきた功績は少なくない。テレビ放映権収入を増やすことで中小クラブの経営を好転させ、税金の滞納を大幅に減らしたこともその1つだが、ルビアレスはまるで金のためなら何をやっても構わないと考えているかのように、改革を推し進める彼のやり方に歯止めをかけるべく戦っている。

 マイアミ開催の実現を目指すジローナ、バルセロナ、ラ・リーガの三者はスペイン政府の傘下にあるスポーツ評議会(CSD)に抗議する構えを見せている。そうなればこの問題は、スペイン対カタルーニャの対立構図に発展する可能性もある。

 いずれにせよ、この問題がすぐに収束する気配はない。

(翻訳:工藤拓)
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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