武豊騎手「日本馬が勝つ日は必ず来る」 凱旋門賞スペシャルインタビュー
日本の競馬は全体的にすごいスピードで進歩している
様々な国の色々な競馬場で騎乗してきた武豊騎手だからこそ分かる日本の競馬の現状とは? 【Photo by Getty Images】
「本当に沢山乗せていただいてきたので難しいですけど、印象に残っているという意味ではトルコとかマカオとか、普段あまり乗ったことのない競馬場でしょうか。マカオは芝というより“草”という感じのコースだったのが印象に残っています(笑)」
――海外と言っても様々ですよね?
「本当にそうなんですよ。海外を一括りにして、“日本と海外”という2つに分けることはできないと思います。それぞれの国にそれぞれの競馬がある。だから様々な場所で乗るのは楽しいし、経験値にもなるのだと考えています」
――世界中の名だたるビッグレースにも乗られてきましたね?
「ありがたいことに凱旋門賞だけでなく、ブリーダーズC(アメリカ)やキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(イギリス)、ドバイワールドC(UAE)に香港の国際レース。本当に多くのビッグレースに乗せていただきました。そういうレースに乗るときは日本人騎手の代表という誇らしい気持ちになります」
――そんな中で相性が良いとか、悪いと感じる競馬場もあったりするのですか?
「理由は分からないけど不思議とありますね。結果が出ると『こう乗れば良いのかな?』と思えるし、次に乗る時にそういうイメージで乗ったらまた好結果が出たということはあります。アスコット競馬場は勾配とか芝の感じとかが日本とは全く違うけど、シャーガーCに何度も招待していただき様々な距離を乗せてもらえているので、苦手意識はありません。今年は散々でしたけど(苦笑)、毎回それなりの騎乗はできていると思います」
――雰囲気が好きな競馬場とかレースはありますか?
「何度も行っているのでフランスの競馬場ののんびりした雰囲気は好きですね。あとはレースだと一昨年にケンタッキーダービー(ラニに騎乗)に乗ったのですが、その時にイベントとして素晴らしいと感じましたし、また乗りたいなと思いました。以前、スキーキャプテンで乗ったことのあるレースでしたけど、当時よりさらに盛り上がっている印象を受けました」
――馬場入場時に観客がマイオールドケンタッキーホームを合唱するのがならわしになっていて、あれは感動しますね?
「ラニの気性的に他馬より早めに馬場入りしたので、合唱を自分の背中越しに聴く形になりましたが、それでもゾクッとする感じは受けました。レース前には優勝馬にかけられるレイが大きな箱に入れて運ばれて来て、皆が神聖なモノという感じで取り扱っていました。それをみた時に世界中には色々な競馬への向き合い方があると改めて感じました」
――それは日本の競馬だけしか経験がないと分からないことですね?
「乗りたくても簡単に乗れるレースではありません。そういう競馬に乗せていただくチャンスをいただけたのは本当にありがたいことです。でも、日本には日本の良さがあります。(オリビエ・)ペリエ騎手は今でも『最も興奮したのは有馬記念やジャパンCを勝ったとき』って言ってますけど、実際、10万人を超えるファンが大声援を送ってくれる中で競馬ができるのは日本だけです。ファンファーレの時の手拍子もありがたいし、馬券の当たり外れに関係なく、皆が勝者を称えてくれる姿勢も日本独特の良い点だと思います」
――ペリエ騎手の名前が出てきましたけど、外国で一緒に乗って感心させられたり、尊敬できたりと感じるジョッキーはいますか?
「もちろん大勢います。ペリエもそうだし、同世代の(ランフランコ・)デットーリや少し上ではマイク・スミスにゲイリー・スティーヴンス。今でも最前線で頑張っていてすごいと思うし、励みにもなりますね。自分もまだまだ負けていられないって思います」
――逆に外国人騎手から尊敬する騎手として武豊騎手の名が出ることも度々あります。昨年のワールドオールスタージョッキーで優勝した(ユーリコ・)ダシルヴァ騎手は『ユタカ・タケと一緒に乗れることを条件に招待を受諾した』と言っていました。
「らしいですね。フランスで若い騎手から助言を求められることもよくあります。日本の競馬は外国人騎手全盛の時代という感じだけど、日本の騎手として負けられないという思いはありますよ」
――競走馬、騎手と伺ってきましたが、ホースマン全体の日本と競馬先進国との差というのはどう感じられますか?
「一概には言えないけど、ひと昔前は相当な差があったかもしれません。その後、欧米も30年前と今では進歩していると思いますけど、日本の競馬は全体的にすごいスピードで進歩しています。そういう意味でその差はだいぶ縮まっていると考えて良いのではないでしょうか」
デットーリはどちらに乗るんでしょうね
同世代のライバル騎手、デットーリの動向は気になるところ? 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】
「ジョッキールームからパドックへ続くガラスの階段がなくなったのは残念ですけど、使い勝手は検量室を始め全体的にだいぶ良くなっているようでした。(金色のスタンドは)昔のスタンドの面影は全くなくなっていましたね(笑)。でも、周辺は変わっていなかったので、久しぶりに競馬場へ向かう道中は高揚感がありました」
――武豊騎手自身は2013年のキズナ以来の凱旋門賞です。
「この2年はシャンティイでの開催でしたけど、エイシンヒカリ、キタサンブラックと連続で凱旋門賞挑戦が直前でなくなってしまいました。そんな流れの中で今年、新しくなったパリロンシャン競馬場でいきなり乗れるのはありがたい限りです」
――春先に不評だった芝生は育成中でしたが、大きな変更点としてゴールまで450メートル地点から内ラチがさらに内へ6メートル広がるオープンストレッチを採用することになりました。これについてはどう思われますか?
「何度か乗ったことはあるのですが、個人的にはあまり好きではありません。内で出られなくなるのも競馬だと思いますから。おそらく多くのトップジョッキーはあまり良い意見を持っていないのではないでしょうか」
――強い馬がより有利になる可能性はありませんか?
「確かにそれはあるかもしれません。包まれて負けるケースが減れば強い馬の勝機が増えるでしょうね。でもそういうコースだと分かっていれば、それに対処した乗り方をするまでですけど」
――今年の凱旋門賞の相手関係について、今のところどのようにお考えでしょうか?
「今年に入ってから勝ち続けている馬というのがあまりいないですから、不動の1番人気馬は不在という感じですよね。昨年の勝ち馬エネイブルも、いかにも順調さを欠いているように思えます。でも伯楽の(ジョン・)ゴスデン調教師の馬ですからね。本番までには本調子に仕上げてくるのではないでしょうか(インタビュー後、復帰戦のG3セプテンバーS(AW・12ハロン)を快勝)」
――同じゴスデン厩舎ではクラックスマンも気になるところですね?
「そうですね。デットーリはどちらに乗るんでしょうね。2頭とも使えばどちらかは違う騎手になるわけだし、そのあたりも気になるところです。でも凱旋門賞でお手馬が重なるなんて、ジョッキーとしては羨ましい話です」