世界選手権は数学の発想で楽しむべし! 山本隆弘が語る男子バレーの見方<前編>

田中夕子

日本はブロックとレシーブの関係が改善

ブレーク時の数字。山本さんは日本の数字は「決して悪くない」という 【提供:日本バレーボール協会】

 次はブレーク(自チームのサーブ時)の数字を見て下さい。相手のAパス時、日本はトップ8と比べマイナス5%(22%)。これも評価できる数字です。なぜなら高さで劣る日本が、サーブで崩せず相手にAパスを返されると、攻撃に4枚入れる状況をつくってしまう。そうなると、単純計算で考えれば相手の攻撃を切り返すのはとても難しいはずです。そこでなぜ切り返し、逆に点数が取れるのか。これはブロックとレシーブ、ディフェンスの関係が改善したことを示しています。

 相手の攻撃に対してあれもこれも対応しなければ、と翻弄(ほんろう)されるのではなく、このローテーションでAパスを返されたら、どの攻撃に対するマークを優先し、こちらの攻撃は捨てる、といったある意味大胆なディフェンスシフトが組まれているからです。

 Bパス、Cパス時も数字は決して悪くない。特にCパス時に関してはブロックとレシーブの関係が構築され、ディフェンス力の高いセルビア(42%)、ポーランド(41%)に続いて全体の3位(39%)です。日本もブロックとレシーブの関係ができている、構築されつつある、と評価できるのではないでしょうか。

リベロがサインを出してポジショニング

 これまで日本は相手の攻撃に対して、ブロッカーがサインを出してきました。たとえばこの場面ではストレートを締める、ストレートを空ける、といったようにブロッカーの跳ぶ位置、締める場所を伝え、それに合わせてレシーバーが入るという状況でした。

 今は違います。サインを出すのはブロッカーではなくリベロ。リベロが入る位置によって、あえてブロックで塞がず抜かせるコースを決め、抜けて来たボールをレシーブする。リベロが中央にいる時はブロッカーがストレートを締めてワンタッチしたボールのケアをしたり、上から打たれたボールを拾う。レフトにいる時はストレート側を空けて、抜けたボールをリベロが正面で拾う。セッターの藤井選手や関田(誠大)選手がブロックに跳ぶ際は相手レフトからの攻撃をケアするなど、ディフェンスでも大胆な仕掛けを見せていて、それが機能しています。

 ブロックの割り切りという点で言えば、相手がCパスからの攻撃で日本のブロッカーが3枚跳べる状況になった時。その1枚がセッターであるならば、あえてブロックには跳ばず、下がってセッターはレシーブに入る状況もあります。

 なぜ3枚跳べるのに跳ばないのか。マイナスにとらえる人もいるかもしれませんが、これは決してネガティブな選択ではありません。サイド、ミドルに比べセッターのブロック位置が低くなる場合、相手のスパイカーにしてみれば「ここから攻撃すれば決まる」と考えます。世界トップクラスになればその状況で単純に打ちつけるのではなく、セッターの右手に当ててボールを外に出したり、隣で跳ぶミドルとの間、後ろで守るレシーバーから見えにくい位置から攻撃を仕掛けてきます。

 そのリスクを軽減させるために最初からセッターをブロックに跳ばせず、下がって相手がフェイントしてくるボールを拾う。2枚ブロックに対してセッターも含めた4枚でレシーブを固めるフォーメーションにすれば、今のボールは誰が拾うのか。ブロッカーが止めるボールだったのか、それとも相手のスパイカーが上回ったのか。1つ1つの状況における役割や責任が明確になります。

 ボールばかり追ってしまうとなかなかこうした細かい動きは見えにくいかもしれませんが、「バレーボールの駆け引き」という点では、非常に面白い見どころなのではないでしょうか。

古賀は的確に指示が出せる稀有なリベロ

的確な指示が出せる古賀(中央)の存在により、ブロックとレシーブの関係が改善している 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 ブロッカーはボールが抜けるまで後ろを見ることができないので、後ろから今の状況がどうなっているかを伝えられるリベロの存在は非常に重要です。メーンリベロの古賀太一郎選手は、こうした指示が的確に出せる稀有(けう)なリベロです。どのフォーメーションが有効で、自分がどこに入り、どのボールを拾うのか。コート全体の動きや流れを明確に示し、ブロッカーの責任にするのではなく「今のは俺が拾うボールだった、悪かった」と素直に言うことができる。

 日本ではブロッカーやリベロというのはなかなか注目されるポジションではありませんが、なぜこの位置にいて、どこを止め、どこを拾おうとしているのか。見れば見るほど奥深く、バレーボールの楽しさが広がるはずです。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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