世界選手権ではローテーションに注目 山本隆弘が語る男子バレーの見方<後編>

田中夕子

山本隆弘さんが語る「男子バレーの見方」。後編はローテーションについて 【写真:坂本清】

 世界ランキング12位(2017年7月7日付)の全日本男子が、現地時間9日に開幕する世界選手権でベスト8に入るためには何が必要なのだろうか。日本バレーボール協会が行った「メディアサロン」の解説と、それを踏まえた世界選手権の見どころを山本隆弘さんに語ってもらう本企画。後編は山本さんに「ローテーション」に注目して解説してもらった。

 バレーボールではサーブ権を得たチームの選手たちは時計回りにポジションを回っている。各ローテーションをセッターの位置を基準にS1〜S6と呼び、それぞれに長所と短所がある。各ローテーションでどんな駆け引きが行われているのかを知ると、バレーボールの見方がさらに広がるはずだ。

日本がS1ローテを苦手にしている理由

ネーションズリーグのデータ。日本はトップ8平均と比べると、S1ローテの数字が明らかに低い 【提供:日本バレーボール協会】

 後編ではもう少し細かく、ローテーションごとにサイドアウト(相手チームのサーブの攻撃)とブレーク(自チームのサーブ時の攻撃)の数字を見てみましょう。

 まずサイドアウトですが、セッターのサーブから始まるS1の数字が日本は低い。これは「ミドルが使えない」ということと同じく、日本男子バレーにとって長年の課題でもあります。僕もそうなのでこの状況はよく分かるのですが、左利きのオポジットにとってレフトからの攻撃というのは非常に難しい。セッターがライトに近い位置にいるので、そこからレフトに上げられるトスを右目で見ながら攻撃に入り、本来ならばアンテナか、それよりも外側に来るトスを打ちたいのですが、なかなかそこまで待てるトスが来ない。そうなると、打てるコースが限られ、相手ブロッカーの正面に打ちつけてしまうことも少なくない。そうなるとセッターの中では左利きのオポジットのレフトからの攻撃は、優先順位が少し低くなります。

日本のS1ローテ(古賀は山内のポジションに入る)。オポジットの西田は左利き 【スポーツナビ】

 できればミドルのクイックやレフトスパイカーのライトからの攻撃で流れを切りたいのですが、当然相手も分かっているのでマークも厚い。有効なのは後衛からのパイプ攻撃ですが、ネーションズリーグではサイドアウト時にこのローテーションで柳田将洋選手のパイプ攻撃はあまり打数が多くありませんでした。リベロが後衛中央にいるので、両サイドのサーブレシーブのケアをしやすい。なおかつリベロの古賀太一郎選手はスパイカーが助走に入ることも考えてレシーブに入るため、ポジション5に入る柳田選手の攻撃がもっと多く使えれば、S1の数字はもっと高くなるのではないでしょうか。

S6ローテは4枚攻撃をつくりやすい

日本のS6ローテ(古賀は山内と代わって後衛中央に入る)。この時は李と福澤の間をサーブで狙われやすい 【スポーツナビ】

 左利きのオポジットにとってS1はやや不得手なローテーションではありますが、逆に特徴が生きるのはS6、S5、S4ローテです。特にS6ローテは李博選手が前衛ライトにいるのでCクイックやDクイックを入れ、その後ろからオポジットの西田有志選手も攻撃に入れる。なおかつ前衛レフトの柳田選手、さらには福澤達哉選手のパイプも入れれば4枚での攻撃が可能です。

 当然相手もそんな有利な状況にはさせたくない。そうすればサーブで最低1枚、もしくは2枚の攻撃をつぶそうとしてきます。S6ローテで狙われるのは福澤選手と李選手の間に打たれるサーブです。福澤選手が前に倒されるような状況になったり、李選手が後ろに下げられると李選手が助走に入ることができず、福澤選手も攻撃に入れない。そうなれば相手はブロックの枚数をレフトに絞ることができます。日本が連続失点を喫するのはこのような状況です。

S5ローテは柳田が狙われやすい

日本のS5ローテ(古賀は李のポジションに入る)。この時は柳田がサーブで狙われやすい 【スポーツナビ】

 逆にS5ローテは柳田選手が狙われる。なぜならサーブレシーブ時に柳田選手と福澤選手が並ぶため、リベロがカバーできる範囲が減ってしまう。2人の間や柳田選手の外側を狙うことで攻撃に入らせないようにする。そうなると西田選手にプッシャーがかかります。攻撃枚数が多いことはもちろんメリットでもありますが、相手はそれをつぶそうとしてくる。バレーはサーブによってメリットとデメリットが目まぐるしく入れ替わります。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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