大谷らしさが見えなかった復帰登板 「出力が上がって」ボールに影響か

丹羽政善

試合中に球速が落ちた理由は?

久々のマウンドで「思ったよりも緊張した」と口にした大谷。力みがピッチングに影響したか? 【Getty Images】

 降板の理由について話を戻すと、ソーシア監督は試合後、「50〜60球を投げさせるつもりだった」と話したが、49球で大谷はマウンドを降りている。その数字だけをたどると予定通りとも映るわけだが、実際は球速が落ちたことでソーシア監督は早めにダグアウトを出た。

 その球速の変化は明らかだった。

アストロズ戦の試合中の球速の変化 【出典『baseballsavant.mlb.com』】

 1回は4シームの平均球速が97.4マイル(約156.8キロ)だったが、2回は95.5マイル(約153.7キロ)に下がり、3回は91.4マイル(約147.1キロ)にまで落ちた。当然試合後、まずは取材に応じたソーシア監督に質問が飛ぶ。

 何かあったのか?

 ひょっとしたら長期離脱の原因となった靭帯を再び痛めたのか? との憶測さえあったが、ソーシア監督は意外なことを言った。

「腰に張りを感じたから」

 大谷がそれを訴えたのは1回が終わってからだそうだが、2回が終わると、それは確かなものとなった。そこに追い打ちをかけたのが2回のプレー。実は、ボールを素手で捕りにいった大谷は右薬指の付け根を痛めていた。3回、その2つの要因が重なって、無意識のうちにブレーキが掛かったか。3回を投げきるまでは、と考えていた監督も、「ここで無理する必要はない」と頭を切り替えた。

 では、なぜ、腰に張りが出たのか。大谷は「明らかに練習で投げる出力よりも高いですし、体にかかる負担ももちろん大きくなる」と話し、久々の登板が影響したことを否定しなかった。大谷いわく「勝手に出力が上がった」ことの副作用が、そうした形で現れたか。

 指の負傷については、「当たった直後はそうでもなかった」――つまり、痛みを感じなかったそうだが、「3回に入って、当たった直後よりかは違和感があった」のだという。
 だとしたらもう、3回の先頭打者を歩かせたところで、ベンチが動いても良かったのかも知れない。異変は、ネクストバッターズサークルにいたジョージ・スプリンガーが、「なにか故障でもあったのか?」と思うほどだったのである。

一夜明けて変わらぬ様子の大谷

 さてこうなると気になるのは、次の日曜(9日)に予定される先発は大丈夫なのか。それまで、指名打者では出場できるのか、ということだが、現時点ではまだ、はっきりしない。

 3日、ソーシア監督は試合前の会見で、「腰も指も精密検査などを必要とするほどではない」と周囲の不安を一蹴したが、次の先発、次のスタメン出場までは明言しなかった。指名打者での出場については、「その日の状態を見て決める」と慎重に話し、先発の予定に関しては、「金曜(7日)にブルペンに入る」と調整スケジュールを発表したのみ。いきなり4日から、指名打者復帰というシナリオは考えづらくなった。

 ただ、大谷はと言えば、一夜明けたこの日も普段とまったく変わない様子で、治療を受けているような形跡もなかった。

 幸い、大事には至らなかった――。そう捉えて良さそうだが、大谷といえど、自分らしさを見失った88日ぶりの先発だったと言えるのかも知れない。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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