東京五輪の金候補がパラ走幅跳にいる? 目指すは“世界記録”8m95超え

宮崎恵理

1回目の試技から8メートル超え

1回目の試技から8メートル超えの跳躍を見せ観客を沸かせると、最後のジャンプで大歓声に包まれた 【写真は共同】

 レームは、ジャパンパラ競技大会に招待選手として出場した。来日は3度目だが、大会出場は初めてだ。

 走り幅跳びが行われた8日、前橋の陸上競技場は、西日本を中心に襲った記録的な豪雨の影響を免れた。風はほとんどなく、時折薄日が差し込む。日本の夏らしい蒸し暑さはあるが、まずまずのコンディションだった。

 試技1回目。レームは8メートル18のジャンプを見せ、スタンドに集まった観客から大きな拍手が湧いた。日本ではなかなか見ることができない世界トップクラスの跳躍に、観客だけでなく参加した選手やスタッフたちも釘付けになっていた。

 世界記録が飛び出したのは、6回目、最後のジャンプだった。助走スタート前、スタンドからは大きな手拍子が鳴り響いていた。体を大きく後ろに反らせた体勢から助走に入る。ぐんぐんスピードが増していく。義足の右足で踏み切ると、レームの体が大きな放物線を描き8メートルを大きく超えて着地した。跳躍の勢いでレームの体はそのまま砂場の枠外に転がるように出た。

「おおお!」

 スタンドはこの日、最大の歓声に包まれた。審判の計測の後、記録が表示される。8メートル47の大ジャンプだった。

今も国際陸連との協議を繰り返す

ウオーミングアップから「良い感触があった」と話すレーム。さらなる記録更新も目指している 【写真は共同】

「15年以来、世界新の更新を目指してきたが、日本で達成できたことはすごくうれしい」

 ウオーミングアップの時点から、良い感触があったというレームは、踏み切りで跳び出した瞬間、手応えを感じていたという。

 8メートル47は、今季一般の陸上競技選手を含めた世界ランキング3位タイという記録だ。レームは今も五輪への出場を目指しているのだろうか。

「国際陸上競技連盟との話し合いは継続している。義足の優位性がないことを証明しなくてはいけないということで、さまざまな調査やテスト、そして協議を繰り返してきた」

 しかし、とレームは言う。

「私は、パラアスリートであること、パラリンピアンであることに誇りを持っている」

 パラリンピックの意義は五輪とは異なるところにある。そこは明確に分けて語られるべきであり、五輪とパラリンピックが全く同一に行われるべきものではない、と強調する。

「でも、五輪とパラリンピックはもっと近づけられたらいい、ということはいつも感じている。例えば、五輪の最終日に、オリンピアン2名とパラリンピアン2名によるミックスリレーが実現できないか。五輪の閉会式の後、パラリンピック開幕にスムーズに移行できるように、バトンが渡されるようなことができたら最高だ、と思っている」

「障がいがあっても次へ進めることを証明したい」

 走り幅跳びに取り組み、世界記録を更新する原動力になっているものは?

「自分のパフォーマンスを見ることで、子どもたちに障がいがあっても、次のステージに進めることを証明したい。そのメッセージを、パラアスリートとして競技を通じて発信していくこと」

 一般の陸上競技での男子走り幅跳びの世界記録は、1991年にマイク・パウエル(米国)が出した8メートル95。約27年を経て、いまだその記録は破られていない。

「まさにマジック・ナンバー。今はベストを尽くして前進するのみ。いつか、超えていけるように」

 その瞬間を2020東京パラリンピックで見られるかもしれない。

「それが実現できたら、最高だ。来年には東京パラリンピック出場権が懸かった大事な世界選手権が行われる。ステップ・バイ・ステップで、東京を目指す」

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著者プロフィール

東京生まれ。マリンスポーツ専門誌を発行する出版社で、ウインドサーフィン専門誌の編集部勤務を経て、フリーランスライターに。雑誌・書籍などの編集・執筆にたずさわる。得意分野はバレーボール(インドア、ビーチとも)、スキー(特にフリースタイル系)、フィットネス、健康関連。また、パラリンピックなどの障害者スポーツでも取材活動中。日本スポーツプレス協会会員、国際スポーツプレス協会会員。著書に『心眼で射止めた金メダル』『希望をくれた人』。

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