「2番・大田泰示」の成長と未来 栗山監督が打順に託したメッセージ

ベースボール・タイムズ

大田が2番を務める意味

昨季の打率2割5分8厘、15本塁打、46打点の成績から一層の飛躍を期待されている大田 【写真は共同】

 そして、「大田の2番」である。彼の最大の魅力は、力強いスイングからの長打力で間違いない。しかし、プロは天性だけの能力でバットを振っていても確率は上がらず、せっかくの長打力も発揮できない。昨季の打率2割5分8厘、15本塁打、46打点も、「まだまだ足りない」という評価なのだ。

 そこで生まれたのが、打順の中でもっとも制限のある2番という役割である。「泰示らしくやってくれればいい」という自由を与えながらも、そこには「考えながら強振せよ」というメッセージが込められている。2番は「待ち」の時間が発生し、「右打ち」という制約も加わる。さらに塁上の状況によっては直球系が多くなる傾向もあり、カウント別に配球を考えながら打席に立つ。この「制限」によって、変化球に簡単にバットが空を切るという不調時の大田の悪癖は消え去りつつある。

 その結果、3・4月の打率2割6分3厘、6本塁打、9打点、得点圏打率2割5分0厘に対し、5月は打率こそ2割4分5厘で4本塁打だったが、打点は22と大幅に増え、得点圏打率3割7分0厘。さらに6月は打率3割2分9厘、3本塁打、14打点、得点圏打率3割0分4厘。確実性もさることながら、より高い集中力が求められるチャンスでの強さを見せた。

真夏の決戦、逆転Vへ高まる期待

「今の野球は一気に流れが変わる。何が起こるか分からない。1試合1試合、きちんとした野球を」と栗山監督は言う。

 4月18日の埼玉西武戦、8回表終了時まで大量8点のリードを奪いながら、2イニング9失点で逆転サヨナラ負けを喫した。このショッキングな敗戦から6日後に「2番・大田」は誕生。それまで横尾俊建や近藤健介、さらには新外国人のアルシアらも2番に据えて試行錯誤を繰り返したが、西川遥輝の1番固定とともに大田が2番に定着すると、迎えた5月27日の西武戦では初回6失点を覆して同一カード3連勝を達成して一気に首位との差を詰めた。“西武独走”の流れを大きく変えるキッカケとなったこの3連戦で、「2番・大田」は15打数6安打で4得点5打点の活躍で勝利に大きく貢献してみせたのだ。現在3ゲーム差。7月、8月、真夏の決戦へ向けて、そして逆転優勝へ向けて、大田が担う役割も大きなものがある。

 ただ、今後も大田が「2番」に入るとは考えづらい。なぜなら、今の大田の活躍を、悔しさを持って見つめる他の2番候補、杉谷拳士や松本剛、横尾らがチーム内に存在するからだ。特に松本は昨年10月に侍ジャパンにも選ばれた期待の逸材。今季は不振が続いてレギュラーの座を明け渡しているが、今後の巻き返しで再び「2番」の座を奪い返す可能性は大いにある。そして大田には、やはり将来、中軸を担って欲しいという期待がかかる。「2番」はそのためのステップ。これを踏み外すことなく乗り越えた先に、新たな大田泰示の世界が広がっているはずだ。

(八幡淳/ベースボール・タイムズ)

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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