“バズる”こと確実な因縁のリマッチ 2人の価値を左右するゴロフキンVSカネロ

杉浦大介

結果予想は難題 カネロの戦い方次第か

17年9月の試合ではカネロが足を使って判定まで持ち込んだ。リマッチでもその展開に持ち込めば…… 【Getty Images】

 このように興行的な成功は確実だが、第1戦から1年の時を経て行われるリマッチの展開、結果予想は簡単ではない。初戦は大半のファン、関係者が実際にはゴロフキン優勢と見たが、一方でカネロの頑張りが目立つ内容ではあった。ゴロフキンはさらに加齢して36歳になり、本来であれば、再戦では試合時には28歳と今がピークのはずのカネロ有利の予想が増えても不思議はないところである。

 プロスペクト時代の10年5月にKO負け寸前の苦戦を目の前で見た頃から、筆者はこの選手には懐疑的だったが、それでも近年の成長ぶりには目を見張らされた。特にディフェンス面の進歩は顕著。ここで再戦がさらに4カ月先になったことも、タイミング的にはカネロのアドバンテージに働きかねない。

「(挑発も)彼らの戦術なのだろうけど、知的に戦うことが助けになると分かっている。必要なアジャストメントを施すつもりだ。自分のやるべきことは分かっているよ」

 足を使う場面が目立った第1戦の戦い方を皮肉られたことに対し、カネロはそんな落ち着いたコメントを残していた。KO決着を期待する声が高まっても、パワーで大きく上回るゴロフキン相手の撃ち合いは得策ではない。スタイル自体は前戦と同じで良く、目指すべきはよりメリハリのある攻防。クレバーなカネロはそれに気づいているはずで、中盤ラウンドをより上手に戦っての判定勝利は十分に想像できる。

カネロにとっては正真正銘の大一番

カネロにとっては急成長が「PED」によるものではないと否定するために大事な一戦となる 【Getty Images】

 ただ……このメキシカンアイドルの周囲には、筆者の知る限り、12年のシェーン・モズリー(米国)戦あたりから常にPED使用の噂があったのも事実である。急成長の時期と、ドーピングの噂が出始めた時期はほぼシンクロする。今回の事件後も悲しんでいるファンはいても、驚いている関係者はほとんど皆無だった。

 今春についに陽性反応が出て、その後にVADA(ボランティア・アンチドーピング委員会)の厳格な検査に同意することを余儀なくされた。そんな経緯を経て、次戦ではどれだけのコンディション、戦力でリングに立つのかは極めて読み辛い。

 モズリー、アンドレ・ベルト、アントニオ・ターバー、フェルナンド・バルガス(すべて米国)といった過去のPED陽性反応者と同様、カネロも摘発後に明らかにパフォーマンスが落ちるのか。最近にない弱々しさを見せた上で再戦で完敗するようなことがあれば、「ずっと薬の恩恵を受けてきたのでは」と疑われかねない。

 逆に今戦でもこれまで同様、いやそれ以上の強さを見せれば、「噂は噂に過ぎなかった」と堂々と主張できる。最近は判定、薬物問題でめっきりイメージが悪くなったが、ここで宿敵に勝てば、失われたものの多くを取り戻せるはずだ。そういった意味で、もう現役生活も後半に差し掛かったゴロフキン以上に、9月15日はカネロのボクシング人生、歴史的評価を左右する正真正銘の大一番と言って良い。

 そして、“遺恨試合”というだけでなく、このように不確定要素が多いゆえに、“メガ・リマッチ”はファンにとっても絶対に見逃せない垂涎の一戦になったのである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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