“バズる”こと確実な因縁のリマッチ 2人の価値を左右するゴロフキンVSカネロ

杉浦大介

ともに嫌悪感を漂わせた“顔合わせ”

前回のプレスカンファレンスでは顔を合わせた2人だったが、今回はSNS上による二元中継という異様な形での会見となった 【Getty Images】

 両者が超高額報酬を受け取るビッグファイトのプロモーションとしては、異例の形という以外にない。7月3日(現地時間、以下同)、プロボクシングのWBA、WBC世界ミドル級王者ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)とサウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)の姿がそれぞれFacebook上の画面に映し出された。9月15日に控えた“因縁のリマッチ”の会見は、両雄が顔を合わせることもなく、オンライン上の二元中継で催されたのだ。

「僕たちはみんながっかりさせられた。カネロのようなレベルの選手はリスペクトするが、失敗したのは彼らであり、(5月にセットされた)リマッチができなくなったのは僕が決めたことではない。チームが失敗したのだろう」

 トレードマークの笑顔が影を潜めたゴロフキンは、無表情のままカネロとその陣営にそう言い放った。一方、カネロも「(相手への)尊敬の思いはもうなくなったよ。様々なことを言って僕を馬鹿にしてくれたからね」とばっさり。画面を通しても両者の嫌悪感は伝わり、終始冷たい雰囲気のプレゼンテーションだった。

リマッチ消滅の危機も条件変更で回避

オスカー・デラホーヤ氏は「互いをリスペクトする気持ちはもう吹き飛んでしまった。そんなとき、リング上では魔法のようなことが起こる」と激戦を予想 【Getty Images】

 ここに至るプロセスを考えれば、両雄の冷戦は当然なのだろう。昨年9月の初戦では論議を呼ぶ形でドローに終わったミドル級頂上決戦は、今年の5月5日にリマッチが一度はセットされた。しかし、ドーピング検査の結果、禁止薬物にあたるクレンブテロールがカネロから検出され、事態は紛糾。カネロ側はメキシコで食べた汚染肉の影響と主張し、PED(運動能力強化)目的は否定したが、それでも結局は半年間の出場停止処分が告げられ、リマッチは延期となった。

 この件でゴロフキンは激怒し、「ウソを言っている。薬物を使っているよ」「ウソ発見器にでもかければ良い」とアルバレスを激しく口撃。態度を硬化した統一王者は仕切り直しの再戦交渉でも50/50に近いファイトマネーを要求し、おかげで9月のリマッチは消滅寸前までいった。最後はカネロが55%、ゴロフキンが45%というゴロフキン寄りの条件でなんとか成立したが、すべての過程で、2人のファイターとそのチームの間には真の因縁が生まれるに至ったのだった。

「互いをリスペクトする気持ちはもう吹き飛んでしまった。しかし、そんなとき、リング上では魔法のようなことが起こる。両者ともに素晴らしい状態で試合に臨み、すごいファイトを目撃できるだろう」

 カネロを擁するゴールデンボーイ・プロモーションズのオスカー・デラホーヤがそう述べる通り、ここまでの紆余(うよ)曲折は次戦に好影響を及ぼすことになるのだろうか。
 遺恨、スキャンダルがビッグビジネスに繋がるのがボクシング界の常。「交渉段階で大きな話題になったから派手なプロモーション活動は必要ない」という判断ゆえに、会見ツアーは行われないという。「試合までにもう顔を合わせたくない」という両者の希望から、前述通り、7月3日の会見も二元中継という珍妙なスタイルになった。

 こんなエピソードも新たなスパイスになるのだろう。第1戦ではPPV売り上げ130万件、ゲート収入も2700万ドル(約30億円)という好成績を収めたが、リマッチではより良い数字が出るのはほぼ間違いない。今後、本番が近づくにつれて話題は膨らみ、今年度最大の一戦はそれに相応しい“Buzz”を帯びていくはずである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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